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『開かれる窓』

 生涯の友、生涯の伴侶。
 人は様々な場面で、これを求め、そして問う。
 親友はいますか?
 家族はありますか?
 と…

 なのに相手が学生になると、途端にこれを否定する。
 学生のくせに、人生もまだよく知らないくせにと。
 それでも、その学生時代に生涯かけて付き合ってゆく“誰か”に出逢うこともある。

 俺が、今胸を張り親友と呼べる友が、此処にいる。
 片足を失くしても、全然変わらなかった男。
 愛した女を、一度は諦めようとした男。
 それでも忘れられないからと、一生独身を言い張っていた男。
 でも、そんな奴が愛した女もまた、圭介だけを想っていた――。

 今年のバレンタインデーに、そんな親友三人と合同結婚披露宴をした。
 圭介は、想い続けた紗和ちゃんと。俺は喧嘩ばっかしてたのに、しっかり摑まった和希と。
 そして規一は、絶対ないと思ってたデキチャッタ婚だった。
「おい。檻の中の猿じゃあるまいし、うろうろし過ぎだ」
 とは圭介の弁。
「確かに、そうだな。お前がいくらうろうろしても何も変わらないぞ」
「うっさいな。お前らも経験したら分かるさ。ほっといてくれ」
 規一は、そう言いながら持っていた紙パックを握りつぶした。
 それはそうだ。
 深夜、急に産気づいたと言って俺に車を出させ、三人じゃ心細いからと圭介まで呼び出した。
 誰よりも彼女に気を使う規一が、最初に父親になる。
 でも、この調子じゃ、これからも何かアル毎に呼び出しをくらいそうだ。
「いいじゃないの。それでこそ親友でしょ」
 隣で和希がウィンクをする。紗和ちゃんもいる。勢揃いだ。
「そうだな」
「産まれたら、うちの店でパーティな」
 こういう乗りは昔から圭介の得意分野だ。
「サンキュ」
 早くも瞳を潤ませている規一のマザコン振りは、これからはチャイルドコンプレックスになるだろうと、俺は密かに思っている。

 親友に子供が生まれたら、どんな関係になるのだろう。
 やっぱ男なら友達一号か。女の子なら、擬似父親体験か。
 どちらにしろ、ここに集まった全員が見守っていくんだよな。心の窓を全開にして、お前が産まれるのを待っている。
「結局、和樹も視線がウロウロしてるよね」
 そう言った和希の言葉に、規一が莫迦笑いをしたところで、赤ん坊の一際大きな泣き声が産院に響き渡った――。
【了】

著作:紫草

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