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『窓の向こうに見えるもの』

 いつか貴女も大人になって、あの窓の外の世界へ羽ばたいてゆく。

 パパより好きな人、見つけてさ。
 会わせたい人がいるの、とか言われちゃって。
 どうする、そんなこと言われたら。
「やめてくれ。一生なくていい、そんな言葉」
 でもさ、高校生とかになったら、キスとかもしちゃうんだよ。
 今時の子だもん、止められないよね。
「絶対、駄目。お前、母親のくせに、よく平気でそういうこと言えるよな」
 覚悟は必要って話よ。
 じゃ、規一君のファーストキスって、いつだった?

 そう言って、どうよって顔をしてみせる。
 すると規一は黙って私を指し示す。

 うそ…

「悪かったな。遅い、ファーストキスで」
 何だ。私が初めてだったんだ。
 あんまり上手だったから、てっきり違うと思ってた。
「いつかは誰かを好きになる。でも、まだ早い話だろ。生まれて半年にもならない娘相手に何を想像してるんだ」
 だってさ。いつかはバレルよ、順番逆だってこと…
 親ができちゃった結婚だもん。すでにペナルティ背負ってるじゃない。

 愚図り始める娘を抱き上げ、規一が窓ごしに外を見せる。
 夜の闇。
 でもマンションの灯りや車のテールランプが、都会の夜を変えてしまう。
 窓の向こうに見える、きらきら輝く光の洪水に、いつの間にか寝息をたて規一の腕のなかで眠ってしまう娘。
 でもね。早く彼氏作ってさ、連れてきて欲しいな。
 そうすれば、私は規一を独り占めできるもん。

 そう言った私に振り返り、規一はこちらにやってくる。
「いつだって、俺にはお前が一番だろ――」
【了】

著作:紫草

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