「時に落ちる」番外編

『涙』その五

 深夜。
 真夜中。

 落ちて来て、何日たったろう。
 闇夜の中で一番私を安心させてくれるもの、それは仁の鼓動。
 でも、今夜のように急患があると彼は出かけてゆく。
 当然だ。

 残される私。
 漆黒の夜、ざわざわ心が騒ぐ。

 コワイ・・。

 そんな時、いつになく明るい月明かりが私に降り注ぐ。
 月って、こんなに大きかったっけ。
 縁側に座り込み、ひざをかかえる。

う〜さぎ うさぎ 何見て跳ねる
十五夜 お月様見て跳〜ねる

「眠れないの?」
 月を見上げている私に、帰った仁が声をかける。
 背中に聞いた仁の声。
 思わず瞳に涙が潤む。
 仁の鼓動を聞きたくて、私は彼の胸へと飛び込んでいった――。
【了】

著作:紫草


 
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