第十六話 生還

 本能寺の変が起こる、六月二日は過ぎた。
 信長の死の知らせは、当然届かない。

 六月三日。
 静かな一日だった。史実では今日、秀吉が信長の死を知らされている筈だった。

 六月四日。
 何か起こっているのだろうか。何も伝わらない。安土では、何か変化があったのだろうか。

 六月五日。
 文長の忍びが仁の許へ来た。
 そして信長の死が、正式に伝えられた。光秀が安土へ入ったという。
 文長や帰蝶の消息は分からない。

 六月六日。
 ここに来て七回目の誕生日。二十三歳。お祝いどころじゃないけれど、皆がささやかに祝ってくれた。

 六月七日からは、何事もなく過ぎていった。一週間、二週間、噂すら届かない。
 きっと、安土にいる者たちの方が大変な騒ぎになっていることだろう。
 確か、末頃には清洲会議が開かれる筈だ。
 柴田勝家と秀吉は、史実通り、争うのだろうか。

 七月七日。
 一人の男が、やってきた。そして、
「間もなく文長様、お戻りになられます」
 と告げた。その後、何処へともなく消えたので、仁が忍びだろうと云った。

 七月十日。
 文長と思しき男が、重体となって帰ってきた。

著作:紫草

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