結局、学校を出るまでに友人数名と出くわして、連れ立ってマックへ行くことになった。
途中、私は何かの予感と同時に胸の痛みに襲われた。激しい痛みは心臓近くの左胸。立ち止まり、顔をしかめる。篠ちゃんに声をかける余裕はなかった。
右手で、左胸に当たる部分の制服を握り締め、目を閉じる。
(落ち着け、落ち着け)
体は次第に前屈みになっていく。立っていることも辛くなり、しゃがみこんだ。
(落ち着け、落ち着け)
頭の中に、脈と同じテンポの痛みが走る。
どくんどくん、その度に胸の痛みも増してゆくような気がする。
今までに経験のない痛みは、私を暫く支配し続けた。
(落ち着け、落ち着け)
それは、まるで何かの呪文のようだった。私を、この痛みから解放してくれるかもしれない呪文。このまま、どうにかなる筈がないという呪文。そして助けて、という呪文。
願いは聞き届けられた。
――数分後。
痛みは嘘のように去り、恐る恐る顔を上げた。
(大丈夫、よね)
しかし、その景色は大丈夫ではなかった。
(何?)
そこは見慣れた通学路。なのに、人っ子一人いなかった。
ううん、人だけじゃない。車も自転車も、何もかもが消えていた。
「音が・・消えた」
思わず声を出した。
あ、聞こえる。じゃあ、音の原因が消えたんだ。音が消えたわけじゃない。
たった今まで隣を歩いていた篠ちゃんの姿も、前後を歩いていた同級生も、誰も彼もがいなかった。
「消えたのは、みんなじゃない。私だ!」
何かの漫画にあったよね。
主人公の女の子が、異国の昔の時代にタイムトリップするってヤツ。
SFの世界でいえば、異空間に落っこちたってとこかしら。
…そんなこと云ってる場合じゃない。
これから、どうしよう。
その時、遠くで声がした。
誰かが、私を呼んでいる・・。