まだ何が起こっているのか、判断できる状態じゃなかった。
ただ無意識に携帯を取り出していた。
「嘘・・」
いつもは、きっちり三本立っているアンテナが圏外になっていた。
―こっちにおいで―
何処かで誰かの声がする。
「誰?」
水が耳に入った時のような、変な音に聞こえた。
私の声、何だか変だ。
―こっちだよ。さぁ、手を―
声のする方を必死に探した。
でも、なかなか見つからない。
―さぁ、早く―
あっ! 見えた。
空中にポッカリ浮かぶ、白く大きな手。
私は無意識に、その手を取ろうと腕を伸ばす。
―もう少し。早く早く―
その時、私の心が小さな疑念を抱く。
この声の人は、何故そんなに急いでるんだろう。
私は、ちょっと考えて自分の腕を引っ込めた。
―あっ!駄目だ―
焦ったような、その人の声。消し去られる白い手。
私のいた処は真っ暗闇となり、次に奈落の底へ落ちてゆく感覚を覚えた。
落ちる。
落ちている、という感覚。
そして意識を失った。
次に目を覚ました時、世界は全く変わっていた――。