第三話 神隠し

 まだ何が起こっているのか、判断できる状態じゃなかった。
 ただ無意識に携帯を取り出していた。
「嘘・・」
 いつもは、きっちり三本立っているアンテナが圏外になっていた。

 ―こっちにおいで―

 何処かで誰かの声がする。
「誰?」
 水が耳に入った時のような、変な音に聞こえた。
 私の声、何だか変だ。

 ―こっちだよ。さぁ、手を―

 声のする方を必死に探した。
 でも、なかなか見つからない。

 ―さぁ、早く―

 あっ! 見えた。
 空中にポッカリ浮かぶ、白く大きな手。
 私は無意識に、その手を取ろうと腕を伸ばす。

 ―もう少し。早く早く―

 その時、私の心が小さな疑念を抱く。
 この声の人は、何故そんなに急いでるんだろう。
 私は、ちょっと考えて自分の腕を引っ込めた。

 ―あっ!駄目だ―

 焦ったような、その人の声。消し去られる白い手。
 私のいた処は真っ暗闇となり、次に奈落の底へ落ちてゆく感覚を覚えた。
 落ちる。
 落ちている、という感覚。
 そして意識を失った。

 次に目を覚ました時、世界は全く変わっていた――。

著作:紫草

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