〜からから、からから、何処かで廻る糸車。
これから綴るお話は一寸昔の物語り〜
――時は、昭和の戦時前。
あそことここと、こことあそこ、そして、ほらほら、あそこにも、将来有望な「おのこ」や「おみな」がちまちまっと遊んでる――。
その中から育った「竹内達也」「松岡柾親」そして「藤森悠茄」の三人は、目に見えない糸を互いに絡め合い、更に、もう一人「水原夏子」を交えての青春は、精一杯の恋をし想い、恋焦がれ、時代に翻弄されながらも、立派に生き抜いたことだろう・・。
時代が飲み込んだ“戦争”という名の荒波が、彼らを含む多くの死を、たとえ望んでいたとしても。
竹内家、次男。達也の性格は曲がったことが大嫌い。
誰よりも優しい心を持っているのに、それを上手く表現できない不器用な生き方を選ぶ人。
松岡家、次男。柾親の性格…これは困った。どう云おう。
傍から見れば、単なる軟派な軽い奴。
でも、でも・・
運命の女を捜すことを義務付けられたような誠実な男。
ただ誰も、そうは思ってくれないだろう、親友の達也と悠茄を除いては。
子供の頃、竹内家に引き取られた悠茄は、すぐに達也に戀をする。なかなか本音を見せてくれない達也の全てを受け止めて。
子供ながらの、小さな戀・・。
★出逢いより 決められし君 追うように
視線を絡め 戀育てたり★ ―翆童―
歳月は流れ―― 柾親の運命の恋人捜しに、周りもすっかり諦めの顔。当の本人ですら、
「俺には、運命の人なんて現れないのかな〜」
と憂い顔。――そんな時、彼は彼女と出逢う。
少し年下の、可愛い女の子。女学校の制服に身をつつみ、友人と歩く帰り道。夏子。
◆逢い初めて 背なにおぶわれ 家帰る
気になる視線 足の痛みと◆ ―珠瞳―
柾親と夏子の出逢い。
それは正に“出会い頭”にぶつかったのである――。
(やれやれ、世話のやけること)
これは後に、夏子のことを初めて聞かされた達也が、恋人〜悠茄に向かい呟いた言葉である。
頭に血が上った柾親は、周囲のこともお構いなしに夏子をその背に負ったのだ。
それは怪我をさせたことの負い目からではない。
紛れもなく、彼が、運命の女に“一目惚れ”をした瞬間であった。
――時は、ゆっくりと、戦争という影を彼らの身近に忍ばせてゆく・・。
著者談:〜短歌を繋いで、恋人たちの想いを書いてゆければ、と思います〜