『糸車〜昭和を生きた恋人たち〜参』

〜からから、からから、何処かで廻る糸車〜

 ♪う〜さぎ兎 何見て 跳ねる
     十五夜 お月様 見て 跳〜ねる♪

 悠茄の暮らす離れにも、小さな縁側がある。
 南向きの、その場所は、達也や柾親らの恰好の宴会場所だ。
 そして彼等は折々の、季節に合わせ酌み交わす。

 秋。
 十五夜。
 月見酒。
“中秋の名月”眺め、ほろ酔いかげんに出来上がる。

 やがて、柾親たちが去った後、狸寝入りをしていた達也から、
「こっちに、おいで」
 と誘われる。
「いいんですか、狸寝入りなんかして。柾親さん、気付いていましたよ」
「いいんだよ。彼奴だって夏ちゃんと、今頃ラブシーンの真っ最中さ」
 そう云いながら、悠茄に渡した盃に酒を注ぐ。
「乾杯」
 達也は、そう云って自分の盃を軽く持ち上げた。
「何に?!」
「ん〜・・、月に」
 くすっと、笑って悠茄も盃を持ち上げる。
「お月様に、乾杯」
 悠茄が盃の酒を飲み干すと、達也の手が待っていた。盃を差し出すと、違う、云われたが、一応受け取ってくれた。
 再び、達也の手が伸びる。悠茄の左頬に。

 ふたりの距離が徐々に縮まり、そして、その唇は重なった――

★十五夜に 盃交わし 月見酒
月の灯りに そっと くちづけ…★ ―翆童―

 一方、こちらは柾親さんち。
 やはり望月。
 ふたりで見上げ、寄り添う影は一つなり…

◆二人して 初めてあおぐ 十五夜に
欠けても戻り 永久にと祈る◆ ―珠瞳―

 著者談:まあるい月の明るさは、恋人たちには魅惑の灯り。
       さぞ、なが〜いKissだったろうなぁ〜

著作:紫草


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