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〜京極〜

『女たち』1

 京極菖。藤村桔梗。京極愛介。椿慎一郎。十文字岳。そして高倉竜平。
 六人の男たちは、そこに立つ。
 モデル雑誌から抜け出たような男たち。
 しかし彼らが魅力的に見えるのは、単に姿形のせいばかりではない。

 そこは六年前、京極葦朗が両親を殺(あや)めた場所。今では廃墟と化したかのような、古びた一軒の空き家の前に彼らは立った。
 その後、誰にも手を加えられなかった家屋は、誰かが住んでいるような雰囲気などなく、ただ残骸として在るだけに見えた。

「本当に戻っているのだろうか」
 そう呟くように、それでも皆に聞こえるように言ったのは愛介だった。
「仕方がないよね。もう他に捜すところが残っていないし、可能性がゼロでない以上捜そうよ」
 慎一郎が多くの鍵束の中から一本を取り出すと、玄関を開ける。
 鍵は必要ないな、という菖の言葉に皆が頷きながら、そこをくぐった。

 ここに揃った面々は全て、いにしえの郷を介して出会った仲間である。
 京極当主の菖を筆頭に、全ての者が自分の意思で菖の許に集い残りそして支えると誓った男たちだ。
 そして生きていたら、もう一人。葦朗もきっと此処にいた。
 その葦朗が命と引き替えに守った女、未央。
「お金は引き出されている。働かなくとも生活には困っていない筈だ」
 そう言ったのは桔梗だった。金銭的な収支決算の責任を負っている桔梗は、毎月下ろされていく未央の通帳の明細を見ると安堵した。とりあえず、まだ生きている、と。
 刑事事件ではない為、録画画像を見るわけにもいかず、せめてという知り合いの署長の計らいで使われた銀行だけを追った。
 多くは都内だった。なかには他県もあるものの、概ね関東地方になっている。
 ただ愛介との約束であった筈の、葦朗の法要には顔を出すというのは守られてはいない。家を出て行った背中を見たのは、もう六年も前のことになってしまった。

 誰が最初というわけではなかった。
 皆が時間の許すなかで捜していた。にもかかわらず、未央の消息がつかめない。
 ちょうど会社の話でいにしえの郷へ渡ることになった高倉竜平が、実は、と話を切り出した。
 そこで菖と桔梗も本土へ渡り、久し振りに勢揃いとなった。情報交換の形で捜した場所と時期を確認していく。その後でのこと。慎一郎がもしかしたらという言い方で、葦朗の部屋にいるんじゃないかと言い出した。
 折角揃っているのだからと、皆で葦朗の家へと出向くことになった――。

 家というのは名ばかりで、いつ崩壊してもおかしくない程の邸内だった。
「いないな。やっぱり何処かに匿われているか。昔の澪のように監禁されているか…」
 桔梗の言葉が皆の沈黙を誘う。
「ごめん。俺があの時、引きとめればよかった。どんなに息苦しい暮らしでも、双子の姉妹だったらいつか打ち解けたかもしれなかった」
 頭を抱えてしまった愛介の肩を、竜平がポンと叩く。
「いいと思ったことをした。その判断は間違ってはいないよ。未央は見つかる。否、俺らが揃って見つけられない筈がないだろ」
 この中では一番年長にあたる竜平が、その場を仕切った。
「ともかく全て見て廻ろう。万が一があっては困る。二人一組だな。菖と慎一郎、桔梗と岳。愛介は俺とだ」
 そう言って移動を始める。いざとなったらその動きは早かった。

 一時間。徹底的に捜して、未央が此処に戻ったことはないだろうという判断を菖は下した。

 葦朗の家を離れ早めの夕食を取ることにした。古い民家を改装した日本料理を出すその店は元々が生活をしていた家である為、個室がある。そこに全ての料理を先に運んでもらい、再びの作戦会議である。
 その場での話し合いが暗礁に乗り上げるかと思った時だった。

「桃子に聞くか」
 しん、と音のないことが聞こえたように空気が張り詰めた。
「何だよ」
 桔梗は不満気に問いただす。
「いや、だって桔梗、桃子を引っ張り出すとお前怒るじゃん」
 とは菖の言葉だが、皆も同じことを思っていた。
「あ〜嫌だよ。でも、ここにいる誰よりも頭の回転が速くて知識があって状況判断できる奴、いないだろ」
 だったら最初から連れて来い、とは誰も口にはできなかった。

 結局その日の船は出てしまっていた為に、翌朝一番にヘリをチャーターして桃子を呼ぶことになった。
 旧姓十文字桃子。岳とは両親が里親をしていた関係で義理の兄妹であり、今は桔梗の細君である。
 偏差値90を超えていても合格するのは難しいといわれる、いにしえ高の編入試験に唯一満点で合格した天才だった。

 そして桃子が合流先に選んだのは、何と葦朗の墓前だったのである――。

著作:紫草


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