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Act 1

『キスシーン』T

「はい、目を合わせて」
 え。何で。
 でも、ま、そのくらいなら。

「次。ここ、立って」
 何で立つんだ。
 でも、その方が楽かも。

「じゃ、して」
「え〜」
「何よ」
「お前さ、ここまで段取りしておいて、じゃしてって何だよ」
 あ。ほっぺた膨らんだ。

 あ〜、分かった分かった。もう分かったから。
「はいはい。じゃ、しましょ」
「もう、いい」
 おい!

「… … …」
「泣くなよぉ」
「だって…」

「ごめんごめん。ファーストキスだもんな。ちゃんとしような」
 恥かしいとか思う前に、してしまえ。
 そんな勢いも手伝って、軽く唇に触れてみる。

「え。もう終わり!?」
「そういうこと言ってっと、思いっきりディープなヤツ、するぞ」
「うん」
 お前、そんな嬉しそうに…

 年の差、八っこ違いは大きいなぁ。
 だいたい、試しにってファーストキスするヤツも酷いよな〜
 女優の卵の俺の従姉妹は、今度、キスシーンをすることになった。
 いかにも経験ありますって顔して帰ってきたらしいけれど、実は、まだだった。

「お前さ。何て言ってOKしたの」
「キスくらい、もうしてるよねって言われたから、はいって」
 思わず頭を抱えてしまった。
 幾らなんでも、それはない。
 お前、まだ十七じゃん。
「よかったのか。ホントに俺で」

 すると瑠璃は、暫く何も言わないで人の顔をジロジロ見ていた。
 何!?
 ちょっとドギマギする。
 最近、綺麗になったよな。

「マジで、キスしていっか」
「ディープなの?」
 思わず、クスッと笑ってしまう。
「あゝ」
 立ったままだった俺は、瑠璃の腰に腕を廻し、頤に右手の人差し指をかけ、顔を軽く持ち上げ近づいてゆく。
 瑠璃の腕が背中に縋るのが分かった。
「目瞑った方がいいの?」
「好きにしろ」

著作:紫草

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