大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――
人は怪しきものとの共存を、当たり前の様に受け入れていた。
土の下に生きる土蜘蛛は、人と蜘蛛とを繋ぐ者に約した中で生きていた。
人の中には蜘蛛として生きる事を望む者もいたし、土の中にも人と縁を繋ぐ者もいた。
土蜘蛛は長く土の下に暮らし、その生き方を詳しく知る者はいなかった――
とある国の、とある処に暮らす部落。
そこに人ではなく人に限りなく近い者が生きていた。
その長老と部落を統べる一人の男が、土蜘蛛との繋ぎを担っていた。男は決められた夜、決められた数の女を土へと送る。そうすることで蜘蛛は人には手を出さない。
男の名は伽耶。長老から謂い付けられ、一人で闇から郷を守る。
蜘蛛は彼が送る女の数で、人を襲う数を決める。
「月のない夜、外に出てはいけないよ。闇が攫いにやって来るから」
人は、それを神隠しと呼び、二度と帰ってこない者たちを忍ぶ。
郷を統べる男は笑顔の下に真実を隠す。
神隠しは神の所業ではない。土蜘蛛が土を出て人を襲いにやって来る闇だ――
昔々、人は人ではないモノと共存していた。
様々な人生が、そこには在った。
男と女の恋物語も、数多(あまた)ある。
それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】