大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――
「土蜘蛛とは関わりをもってはならぬ」
おばあの戒めの言葉は、郷の皆の心に深く沈んでいる。
だからといって、誰もが土蜘蛛を恐れているわけではない。なかには、偶然出遭った土蜘蛛に懸想する者もいる。そのまま伽耶に送られてゆく者もいた。
そして伽耶が一緒にいる“なうら”もまた、土蜘蛛の後継者と遭っていると噂になっている。
「あれ程戒められているのに、なうらは何故謂いつけを守らぬ」
長老から伽耶が責めを受けていたこともある。
多くの女たちが伽耶を共有するように生きているのに、なうらがやって来てからは独占状態だ。
それなのに彼女は自分の意思の趣くままに行動する。
なうらは、伽耶が何処か遠くの里から連れてきた者だ。おばあの話では我らに近いというが、ただの人の子にしか見えない。
だからこそ女たちは、なうらに対し余り好い感情を持ってはいなかった。
そんな状況だからこそ、女たちと揉め事を起こすなという露智迦の言葉は大切だと分かっていた。
しかし伽耶は笑って誤魔化してしまう。
それもまた、女たちの癪に障る要因になった。
とある日。
その日は土蜘蛛が地上へと出てくる夜で、誰もが外へ出るなと言われているのに、なうらは伽耶と言い争いをしたとかで山へ向かって行った。
流石に心配になった長老が露智迦を捜しにやったが、なうらには悪いという気持ちがない。
(やはり長く人界に暮らしたせいか)
とも思うが、それだけで土蜘蛛と関わりを持っても仕方がないとは云えなかった。
郷全体が恐怖に思う。
女たちが次々と攫われても、なうらの取る行動が手引きをしていると取られかねない。
それにしても何故、なうらは恐怖を感じぬ。
おばあの言霊は、なうらには効かぬのか。
長老は何か起こらねばよいが、と杞憂を抱いていた。
そしてその杞憂が現実のものとなって、襲ってきた。
露智迦、伽耶、そして迦楼羅までもが土蜘蛛に捕らえられたと知らせが入った。
下に潜ってしまっては、手出しはできぬ。
そして、この郷で最も力を持つ三人が捕らえられた。
三人がいなくなれば山の結界が壊れる。
長老はおばあの許へ出向く。知らせないわけにはいかなかった。
道々、屍が戻ってくれば運がいい、と男たちが言い合い女たちは嘆き悲しんでいた。
それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】