『海豚にのりたい』
6
カイザ
「カイザ、来たよ。俺を憶えているか?」
『おかえり、優作』
長(おさ)からの、再三の帰国命令を無視し、春宮…否、今は“カイザ”と名を替えた彼は、海で優作を待っていた。
優作は、名医と呼ばれる外科医となってからも、この海の見える病院を離れることはなく、カイザは優作を心から慕っていった――。
二人の間に流れる絆は、種族を越え、やがて固く結ばれていった。
家族という本来一番大切とされるものを優作は失い、今では、カイザの存在が心の拠り所になった。
この海に戻るまでの優作を支えたのは、まぎれもなくカイザの存在であり、カイザもまた優作が戻ると信じ待っていた。約束を忘れなかった二人のことを、もう誰も引き離すことはできないだろう。
海は優しく優作を迎え入れた。その体から、遠い遠い祖先の血が龍のものだと見えたのは、そんな海の優しさをカイザが感じた時である――。