『ねがい』

ぶんぶんぶん
蜂が飛ぶ
お池の周りに野薔薇が咲いたよ

朝露きらきら
野薔薇が揺れるよ
ぶんぶんぶん
蜂が飛ぶ
                     作詞 村野四郎


 巣箱に群がる蜜蜂を、毎朝眺めている人間。
 何が面白いというのだろう。

 吾は、ただただ蜜を運ぶ。
 人間の言葉を借りると、働き蜂だったか。
 面白いから、そやつの頭近くをぐるりと一周してみた。
 払う素振りも見せず、吾の羽音に耳を澄ましているようにも見える。

 この薔薇園は、この人間の道楽とやらだそうだ。
 見事な薔薇は植えられたものではなく、野生の薔薇を覆うように他の花と区別された。
 誰に聞かせているのか。
 この人間は、いろいろなことを話している。

 巣箱におられる女王蜂という名の、姉妹。
 吾は花の蜜を集め、そして運ぶ。
 間もなく終える生涯の、ほんの少しの戯れ。

 この人間は、明日も巣箱を覗くだろうか。
 これまで毎朝、やってきたように。

 さすれば、吾はそなたを忘れず仲間に教えてやろう。
 この人間は仲間を傷つけることはない。
 いつまでも、この巣箱を大切に守ってくれるだろう、と。

 働き蜂…
 間もなく終えるこの命の、その果てにそなたの顔を見ていたい――。
〜おしまい〜

著作:紫草

NicottoTown サークル「自作小説倶楽部」より 2013年3月分小題【蜜蜂】






back 童話list
inserted by FC2 system