連れ去られしガーネット。
 日本名、柘榴石。
 宝石泥棒は館の一部屋にデモンを飾る――。

石物語『妖魔』第一章


 連れられてきたのは、輝く宝石の集う館であった。
 其処は不思議な場所であった。多くの宝石は石であり、そして人の形をとる者であった。様々に彩られ、宝石たちは耀く。

 我は与えられた其処に、すぐには馴染めなかった。だからこそ、外へと出てくる。長く日の光の下に居たからだろうか。広い空間に安堵する。
 人の姿は便利である。誰の手を借りることなく、自らが望めば望む場所にすぐ移動ができる。同じ場所に留まるのも自由、動くことも自由。自由など石である我に与えられるものではない。それを魔力で叶えてくれたのだろうか。
 何の制限があるわけでもない。このまま此処を離れてゆくこともできるのだと気付く。

 しかし――。

 今は、共にあれと言ってくれたリュビの許にいようと思う。自らを宝石泥棒と称する彼と、そして思いがけず遭遇を果たしたアガート・ド・ブリザール。相変わらず妖魔、悪魔と呼び合いながら、少しだけ仲間を意識した。

 もしかしたら、この館の中にはまだ知る石が居るのかもしれない。そう思いつつ館を見上げる。すると、与えられた部屋にも愛着が湧くような気もするから不思議だ。

『デモン。こんな処で何をしている』
 どうやら、また何処かに宝石を探しに行っていたらしい彼が、白鷲の大きな翼で我を覆うように下りてくる。

――何も。ただ陽光の下に出たかっただけだ。

『深紅の姿もいいが、その姿もまた魅力的だ。初めてお前を見つけた時を思い出す』
 その言葉に、そうだったと思い返す。彼が我を見つけた時、その姿は緑色に輝いていただろう。

 ……カラーチェンジガーネット。

 リュビはどちらの色が好きなのだろうか。ふと、そんなことを思う。きっと、どちらも良いと答えるだろうな。
 彼は優しい。そして、あらゆる意味で強い。そんな気がする。
『デモンが陽光を望むのであれば、硝子の匣を造ろうか』
 そのかんばせに微笑みを浮かべながら、バイカラ―や仲間を並べるのも面白い、とこちらを覗きこんでくる。

――硝子の匣は魅力的だが、我も館の部屋に戻るとしよう。そしてリュビが望む時だけ、エメラルドの色に染まろう。
 夕闇が迫り、陽光が閉ざされる。
『では、部屋までエスコートしよう』
 言われながら、手を取られ歩き出す。

――リュビの手伝いをしよう。何か意図があって、探す石たちがいるのだろ。
 我のその言葉に彼からの直接の応えはなかった。ただ握られた掌が、少しだけ熱くなった――。
【了】

著作:紫草

NicottoTown サークル「幻想断片」より

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