幹事の号令のもと、あちらこちらで乾杯の声が響き渡った――。
クリスマスパーティは働くに限る。
時給は高いし、用意されたプレゼントの箱が残るとお持ち帰りもOKだ。
これまで、ずっとそう思ってきた。
でも……
どうして、この会場に彼がいるのだろう。
同じ大学、同じ学部の一年下。
今時の優しい男の人だ。
二年前の春。サークルに入っていないというので、和華の入るカラオケ部に誘った。しかし歌が下手だからと断られ、その後何となく近寄り難い存在になってしまった。
それでも気にはなっていた。彼女はいないって言ってたのに……。
今、ビシッとスーツ姿を決めている彼の隣には、やはりドレスに身を包み着飾った女性がいた。
和華はバニー姿。お酒やお食事、ケーキを運ぶ。誰も自分たち、コンパニオンの姿など見ていない。今夜はクリスマスイヴなのだ。連れを楽しませることで頭がいっぱいだろう。
いいな〜
つい、そう思ってしまった。
入学の頃に比べると随分垢抜けて、カッコよさに磨きがかかっている。エスコートされる女性に羨望の眼差しを向けても、気づく人もいない。多くの女性が彼の一挙手一投足をおっていたから。
そして初めて、この日に働く自分を呪った。こんな所にいなければ、彼に遇うことなどなかったのに。
此処は芸能関係の会場だと聞いた。だからこそ夜通しでのパーティになる。休憩は取れるが、明朝までの拘束時間は長い。
テレビで見る人も時々入ってきては、中央にいる偉い人に挨拶をしていく。招待状がなければ入ることのない会場に、彼はどんな伝手で入ってきたのだろう。
寂しい気持ち、妬ましい気持ち、そして気づいて欲しい気持ちが頭の中でぐるぐると回っている。
「バニーさん。お酒を頼めるかな」
会場を無意味に歩いていたら、声をかけられてしまった。
そうだ。仕事をしないと。
お酒のあるカウンターに行き、カクテルを数種類と水を盆にのせる。声をかけてくれた男性の許に戻り、カクテルを一杯渡した。
離れてしまった彼の姿を捜したが、もう見つかりそうもない。有名ホテルの一番大きなホールだ。多くのコンパニオンが入り乱れ、そろそろ休憩時間かなと思っていた。
「ケーキを貰えるかな」
後ろからかけられた声に、どのタイプのケーキを希望するかを確認しようと振り返る。
!
「何してるの?」
「バイト」
「そっか。頑張ってるね」
いつもの笑顔があった。
「け、ケーキはどんなものがいいですか」
声をひっくり返しながら聞くと、彼はクスっと笑ってロールケーキみたいなやつがいいなと言う。
「かしこまりました。只今、お持ち致します」
頭を下げて、ケーキのテーブルに走った。
変じゃなかったかな。笑われなかったけれど、本当は笑ってるかな。
あ〜 ダメだ。彼はお客様、和華はバニー。私的なことは忘れないと。
そう思って改めて気づく。彼、いいなと。
「お待たせ致しました。近くのテーブルでカット致します。こちらにどうぞ」
両手に待つケーキを彼の前でカットする。
あれ、そういえば連れの女性はどこだろう。
取り分けたお皿とフォークを渡す。
「お連れの方の分は如何いたしましょう」
頂きます、とフォークを口に入れたところで彼が固まっている。
何か変なことを聞いただろうか。そっか。今、ここにいないのだから、聞くことではなかったか。
「それでは、こちらに置いておきます。何かありましたら、お近くのコンパニオンにお声かけ下さい」
彼の顔を見ると情けなくなってくる。時々、遇ってはいたけれど連絡を取り合うことはなかった。
でも好きだったな〜
知り合ってから来年の春で二年が経つ。
「夏目さん。休憩ですよ」
バイト仲間に声をかけられ、そのまま控室に急いだ。朝までは長い。少しだけ泣いてしまおう。
そしてイヴはクリスマス当日に変わり、やがてお開きとなる。解散の場でバイト代を貰い、帰路に就く。
大学に入って三度目のクリスマスは、少しだけ泪色の景色となった――。
-To be continued.-