第一章

桔梗 T

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 桔梗の一日は、怠惰だった。
 何時も、何かを持て余していた。
 それというのも、それまでいつも寄り添ってきた友人、京極菖(きょうごくあやめ)に一年前、恋人ができたからだ。二人の時が増えると必然的に、桔梗は一人になった。
 だからといって不満があるわけではなく、むしろ彼は喜んでいた。
 何故なら、菖は女を嫌悪した。
 はっきり言おう。女を憎悪していた。だからこそ桔梗は、普通の高校生のように菖に恋人ができた事を素直に喜んだのだ。
 しかし、現実は残酷。
 一日の多くの時間を、持て余してしまう。
 昨日どんな一日を送ったのか。それすら忘れてしまうほど無意味な日々を送る。
 そんな桔梗を苦々しく見る菖は言う。
「お前にも、本気で守りたいと思う女ができたら分かるさ」
 と――。
 それを聞きながら思わず苦笑する。菖にそんな事を言われるとは、夢にも思っていなかった。
(女…ね)
 ため息とともに空虚な時が流れる。
 今更守りたい奴なんて現れる筈がない、と桔梗は半ば諦めていた。

 そんな桔梗が何かに導かれるように運命的な出逢いをするのは、高二に進級したての陽春。
 この世情から見放された“いにしえの郷(さと)”に、珍しく緊急ヘリが飛んできた、とある昼下がりの事である。

著作:紫草

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