第一章

陽だまりの翳り

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 世の中が、どんなに現代社会に進化していっても、保守派の人種がなくなることはない。
 まして旧華族として、公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵と呼ばれ栄華を誇った者たちは、その、かつての繁栄だけにしがみつき、やがて登場する成り上がりの馬鹿どもと、とんでもない一大計画を実行するのである。

 此処は、いにしえの郷。
 一応、東京都に属する、太平洋上に浮かぶ巨大な離れ孤島である。

 栄華を極めたお馬鹿な先祖らは、この土地を買い取り、政治家を操り、此処を国として認めさせた。そして、中学から大学院までの全寮制の学校を建て、それに伴う様々なビジネスを起こした。
 島に渡るのは、寮と学校に携わる人間のみ。伝統に則る、その全てを配置する。そして、世俗にまみれず純粋に、華族・士族だのの復活を教え込む、というのが目的だった。
 しかし!!
 世の中、そんなに甘くはない。時は流れるのだ。どんなに過去を欲して逆行を試みても、簡単にはいかない。それこそ、教え込む対象が、
「ばっかじゃないの!」
 の、現代人。根本が間違っているのだ。
 それでも此処は存在する、すべてを、闇のベールに包んで。

 桔梗は、中学入学と同時に此処へやってきた、菖と共に。自分では選ぶ権利すらなく、ただ菖が行くという理由から、親に言われたのだった。
 莫迦にした話だ。
 しかし、今も京極家の家来だと信じているような親に、何を言っても無駄な事。当時桔梗は、全てを捨てて家を出る決心をした。
 ところが、である。
 一緒に逃げ出そうと思っていた女が、京極から金を受け取った。夢は、あっけなく消えた。十二歳の桔梗には『女の打算を理解する』なんて芸当はできる筈もなく、十歳上のその女は、一生困らないだけの金と後ろ盾のある夫を与えられ喜んで嫁にいった。
 桔梗は、その日から感情を失ったままだった。

 そして菖もまた、京極家の名を背負ったがために感情を失っていた。話すうちに互いの事を知った二人は、よく似ている互いのことを分身であり、そのものであり、その全てを理解するようになっていった。女を嫌い、避け続け、やがて四年の月日が過ぎようとしていた。
 そんな、とある日。
 菖は摩子と出逢った。運命と呼ぶに相応しい出逢いだった。
 そして桔梗は残される、硬い鎧に身を固めたままで。

著作:紫草

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