大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――
「――というわけで、此処の住人はお前を歓迎するそうだ」
リューシャンは舩を降りると、すぐにザキーレの許へ飛んだ。
此処がどんな処でも構わない。
ザキーレの無事な姿を見た時に思った。
(ザキがいれば、恐くない)
と。
「貴方は誰」
リューシャンは背に向けられた言葉に、初めてその人物を確認する。
「私はシヴァ。お前の友だ」
「友!?」
そんな筈はない。私に天人の友はない。
すると頭に声が響いた。
≪我は天人ではない。破壊神だ≫
それは、このシヴァと名乗る者の声だった。
「何かあれば私を呼べ」
「どうやって…」
「願えばいい。ただ助けてくれ、と」
「分かった」
「上手くやれ。此処は天帝が創った天界という箱だ。安定を壊すなよ」
「お前に云われたくは、ないな」
すると高らかな笑い声を残し、彼は宙へと飛び立ちそして消えた。
そこにいる皆がシヴァを見送った。そして改めて、皆の視線がリューシャンに注がれる。
中に白髪の老人がいた。その人が近づいてきて告げた。
「よく来て下さった。さあ、天帝の屋敷に案内しよう」
掴んでいたザキーレの腕が動く。
「大丈夫。天帝はお前をちゃんと迎えてくれる」
「ザキ…」
そこには昔から知っている顔があった。彼はリューシャンの知るなかで、一番優しく笑っていた。
「天帝って、どんな人?」
「面白い人。威張ってるのか威張ってないのか、よく分からない人。で、リューシャンが来ることを本当に楽しみに待っていた人」
「変なの」
ほんの少しの笑みを浮かべ、リューシャンは連れ立つ老人等と共に屋敷へと向かう。彼女を待っているという、天帝に会うために。
それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】