大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――
「こんなことで呼ばれようとは思わなかったな」
突然、そう云いながらリューシャンの前に出現したのは、遠く記憶の彼方にあるシヴァだった。
「リューシャンの叫びが、私を呼んだ。これが何を意味するか、解るか?」
彼が天帝に向かい、そう声をかけた。
腕を失った痛みで、ザキーレは言葉を発することができない。
それでも彼の云っていることは理解した。
突然のことばかり。
そう、ザキーレは突然やってきた天帝に片腕を切り落とされたのだ。
「我は破壊神シヴァ。リューシャンは、お前の破壊を望んだのだ」
その言葉は、はっきりと天帝に向かって投げかけられた。
しかし遅かった、とシヴァは云う。
リューシャンは切り落とされたザキーレの腕を胸に抱き、彼の魂と引替えに自分の意思を手放していた。
「今となっては、リューシャンの意思を確認することもできない。しかし、お前のしたことは許されぬ。ザキーレに腕を与え、封印を施し地上へと送れ」
一瞬、何かを云おうとした天帝の口元が動いたが、言葉はなかった。
このままでいけば、この箱は破壊される。
それは、ザキーレを守る為にリューシャンがシヴァを呼んだから。
天帝にとって「それでもいい」とは云えない程、この天界は大きくなり過ぎていた。
「サクジンを呼び戻す。彼に安定の部屋を作り直してもらう」
天帝は、それだけ云うと浮島を離れた。
「大丈夫か」
シヴァはリューシャンの膝を借りて横たわる、ザキーレに近寄った。
そろそろ“魂の刻”が尽きると感じていた。
「リューシャンが望んだ魂だ。大切にしろよ。封印は、いつかは解ける。その時、お前の下す判断に全てを委ねよう」
(シヴァ…)
言葉にならない、思いを伝える。
(貴方は、いったい何者ですか)
しかしシヴァは笑うだけだった。そしてザキーレから離れ、リューシャンの隣に座る。
「近くリューシャンも地上界へと降りることになるだろう。しかし彼女は人として生まれ変わる」
そこで彼の表情は少しだけ曇った。それでも気を取り直すように、そうだな、と付け加え、
「竜を常食するという金翅鳥の別名でも、名付けるように云っておこう」
(竜… 私を食べる!?)
「必ず、思い出せ。いいな」
シヴァが、茫然自失のリューシャンを抱き締めた。
すると彼の声が鮮明に、頭に響いてきた。
≪お前に露智迦の名をやろう。迦楼羅を頼む≫
その言葉を最后にシヴァは姿を消し、ザキーレもまた意識を失った――。
その後、彼らがどうなったのか…
それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】