大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――
リューシャンは闇の中にいた――。
我等は人とは違う。
多細胞で新陳代謝をして育つのではない。
型を貰い形を作り、その姿を維持している。
人でいう単細胞と同じなのだ。
その中から、腕一本が失われる。
何割の欠損が、魂の消滅に繋がるのかは判らない。
しかし目の前に落ちてきたザキーレの腕は、明らかにその体から切り離されたのだ。
何が起こったというのだろう。
リューシャンの許しがなければ、島へは上がれない。
それなのに天帝は、やってきた。
褥を出たザキーレは、リューシャンを隠すように立ち上がる。
言葉もなく、誰が来たのかも最初は分からなかった。
置いてあった青龍刀を手にした彼は、そのまま空気を薙ぎ払った。
後ずさるザキーレに対し、今度こそ刀は真上から振り下ろされる。
影が動き、その無くなった部分から天帝の顔が見えた。
怒りが暴走した、と思った。
その刹那、大地は揺れ天界の多くは崩れ落ちた。
やがてリューシャンの怒りはザキーレへの気遣いに変わる。
そして、いつかのシヴァの言葉が蘇る。
“助けて欲しければ”願えばいい。
≪助けて。ザキを助けて! そして…≫
天帝を見た。
「お前を、この天界を恨む」
崩れ落ちたザキーレを支え、落ちた腕を抱き締めた。
何を引替えにしてもいい。
ザキの魂を消さないで。
リューシャンは闇の中にいる。
混沌から抜けることができるか否かは、誰にも分からない。
それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】