大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――

『思ひ出語り/天界6』
混沌

 リューシャンは闇の中にいた――。

 我等は人とは違う。
 多細胞で新陳代謝をして育つのではない。
 型を貰い形を作り、その姿を維持している。
 人でいう単細胞と同じなのだ。
 その中から、腕一本が失われる。
 何割の欠損が、魂の消滅に繋がるのかは判らない。
 しかし目の前に落ちてきたザキーレの腕は、明らかにその体から切り離されたのだ。

 何が起こったというのだろう。
 リューシャンの許しがなければ、島へは上がれない。
 それなのに天帝は、やってきた。
 褥を出たザキーレは、リューシャンを隠すように立ち上がる。
 言葉もなく、誰が来たのかも最初は分からなかった。
 置いてあった青龍刀を手にした彼は、そのまま空気を薙ぎ払った。

 後ずさるザキーレに対し、今度こそ刀は真上から振り下ろされる。
 影が動き、その無くなった部分から天帝の顔が見えた。

 怒りが暴走した、と思った。
 その刹那、大地は揺れ天界の多くは崩れ落ちた。
 やがてリューシャンの怒りはザキーレへの気遣いに変わる。
 そして、いつかのシヴァの言葉が蘇る。
“助けて欲しければ”願えばいい。
≪助けて。ザキを助けて! そして…≫
 天帝を見た。
「お前を、この天界を恨む」
 崩れ落ちたザキーレを支え、落ちた腕を抱き締めた。

 何を引替えにしてもいい。
 ザキの魂を消さないで。

 リューシャンは闇の中にいる。
 混沌から抜けることができるか否かは、誰にも分からない。

 それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】

著作:紫草



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