大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――
「どうしても、ここでは暮らせないのか」
もう何度も聞いたザキーレの言葉、その都度、嫌だと言い続けているリューシャン。
「折角、中央の屋敷に部屋をもらったのに」
確かに、そうかもしれない。
天界へやってきて、かなり経つ。
それなのに、リューシャンは屋敷に入ろうとはしなかった。
ここには広大な土地があり、いくつかの集まりになっていた。その一つ一つを其々管理する役人が置かれ、さらに中央と呼ばれる所には大勢の役人が働いている。
天帝は、その最奥部にある場所に屋敷を持ち、いくつもの部屋と離れがあった。
リューシャンはザキーレと共に、その部屋の一つを与えられたのだ。
でも、此処は好きではなかった。
人界のように田畑を作り、子を育てている。そのことに対し何かを言うつもりはない。
ただリューシャンは、自分がそこに入ることを拒んだ。
屋敷の屋根に登ったり、日向ぼっこをしたり、それはそれで楽しい日々を送っている。
でも自分なりに生きたかった。天帝を嫌っているわけではない。自由が欲しいと思ったわけでもない。
何か、自分が居る意味を感じられる何かをしていたかった。
最初は役人になれと言われた。
役人として、管理する場所を与えると言われた。
天帝は分かってはいない。
リューシャンは天人を制圧するようなことをしたくなかった。
でも、天上界から来たリューシャンが天人の中に入ったら、誰もが脅威を感じてしまうだろう。
だからこそ、天帝も天人も関知しない場所にいたかった。
やがて、天帝が折れた。
「此処には、空間の歪みを安定させる為の場所がいくつか存在する。特に、空中にある浮島は特別だ。荒れた土地に白虎が棲まう。お前たちに、あそこをやる。浮島は私でも、白虎の許しがなければ上がれない。好きにしろ」
リューシャンは、その日のうちに浮島へと渡った。
それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】