大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――
「ザキ、何か見えるか」
天帝が在ると云った場所の上空は、暗雲が立ち込め風が唸っているだけの空に見えた。
ザキーレはリューシャンの問いかけに返事をすることはなく、人型を解き空を飛んだ。暫く戻ってはこないだろう。リューシャンは脱ぎ捨てられた着衣を丸め、その場に座り込み、意識を集中させた。
視えたのは、此処にも匹敵するかと思われる広大な土地と竹林だった。
(虎がいると云っていたな。それで竹林か)
その時、視界がザワッと揺れた。直後、何かが飛び抜け再び戻ってくる。
(ザキ…!?)
刹那、一角獣が現れた。
「何…」
≪ワタシに乗るがいい。浮島へ運んでやろう≫
「待って下さい。私だけでは行けない」
≪あの龍なら上で待っている。早く乗れ。此処の者に余り姿を見られたくはないのでな≫
一角獣はそう言って、身体を下げた。
リューシャンは彼に跨った。
すると、あれ程暗澹としていた空間が開け浮島が現れた、西門に佇む白虎と共に。
リューシャンは一角獣を降り、白虎の前に跪いた。
「白虎様。リューシャンと申します。このほんの片隅に置いて戴きたく参上しました」
彼は何も云わなかった。ただ黙って、その姿を動かし門を入ってゆく。
≪許しが出た。下に用がある時はワタシを呼べ。ワタシに乗らなければ行き来は出来ぬ≫
一角獣はそう残し、何処(いずこ)へともなく消えた。
白虎の後を追い門をくぐると、ザキーレが龍の姿のまま待っていた。
「ザキ。許しがもらえたって、一角獣が」
「話はついたよ。この枯れた土地を耕すことを条件にね」
彼は姿を人型に戻した。持っていた着衣を差し出す。
「飛んだ気がしなかっただろう。でも近くて遠い場所にある。ここなら天帝の支配は届かない」
リューシャンは、大きく頷いて歩き出した。
広大な土地。ここを耕す。
簡単なことではない、自らの手を使って耕すということは。
それでもリューシャンは決めていた。
超常力など使わずに、自分の手でやるのだと。それが、自分が人型をとる使命のようにも思えた。
こうして二人の浮島での厳しく、それでいて幸せな暮らしが始まった。
それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】