大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――
浮島。
白虎が云うには、“浮く”島らしい。
ザキーレが白虎との間で、どんな風に話をつけて土地を耕すことになったのか。何度聞いても教えてはくれない。
ただ彼は、時折ふらりと竹林から出てきては休んでゆく。広大な土地の、ほぼ真ん中に一本の木があった。
彼はその大木の根元に陣取り、二人が働くのを一日中眺めていた。
その大木を中心に、日々少しずつ耕してゆく。
龍である二人は枯れた土地から水脈を見つけ、井戸を作った。
溝を掘り、区画する。その全てを両の手でする。
ある日、白虎が道具を銜えてやってきた。
≪人が使う物だ。土を掘り起こす時に使うらしい。使い方を知りたかったら仙人を呼ぶ≫
「えっ? 天帝に許可なく誰かを呼んでもいいんですか!?」
驚いた勢いで、白虎を掴んで聞いていた。
ザキーレの動きが、驚きの余り止まっていた。そのザキーレを見て、自分が白虎の体を掴んでいることに気付き慌てて手を離す。
すると彼は大声で笑い出した。
(お〜 白虎様って笑うんだ)
≪よく覚えておけ。我は天帝より位が上だ。我の認めた者が浮島への上陸を許される≫
「はい」
≪これからはお前が認めた者の上陸を許そう≫
「…」
余りの驚きに言葉を失った。
「いえ、ちょっと待って下さい」
リューシャンは戸惑っている。こんな風に信頼を寄せられたのは初めてだ。
≪あのシヴァが認めた。我に依存はない。そして…≫
ザキーレを見た。
そして白虎は彼に寄ってゆく。
≪こやつの魂を預かった。リューシャンは此処では自由だ≫
「駄目です! ザキの魂は駄目。私の魂をあげます。我が儘言うのは私だから。だからザキの魂は返して下さい」
白虎はザキーレを見て、そして再び笑った。
≪知ったらきっとそう言うだろう、と聞いておるわ。魂を取ったりはせぬ。万一何かが起こった時に、ザキーレを救う為に預かるのだ≫
自分に何かがあったらリューシャンは生きてはいない。だから、万一何かがあったらほんの少しの時間でいい。私の“魂の刻”を長らえさせて下さい。その為なら何でもします。
白虎の脳裏に初めて合った時のザキーレの言葉が蘇る。
我が恐くはないか、という白虎の言葉に、リューシャンを失うこと以上に恐いことはないと言い切った。
≪お前たちの望みは?≫
「天界に、リューシャンの居場所を下さい」
そしてこの美しく青い龍に、西の土を預けようと白虎は天界に来て初めて思ったのだった。
リューシャンは、ザキーレの言う万一の為の珥堕を施す。
万が一、ザキーレの身に何かが起こったら、この珥堕が白虎の力を呼び起こす。
しかし、万が一などある筈はないとザキーレは笑う。その笑みに白虎もまた同じように云うのだった。
それからも二人と一匹、日がな一日土地を耕し過ごしている。
それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】