大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――

『思ひ出語り/天界9』
浮島2〜封印〜

 浮島。
 白虎が云うには、“浮く”島らしい。

 ザキーレが白虎との間で、どんな風に話をつけて土地を耕すことになったのか。何度聞いても教えてはくれない。
 ただ彼は、時折ふらりと竹林から出てきては休んでゆく。広大な土地の、ほぼ真ん中に一本の木があった。
 彼はその大木の根元に陣取り、二人が働くのを一日中眺めていた。

 その大木を中心に、日々少しずつ耕してゆく。
 龍である二人は枯れた土地から水脈を見つけ、井戸を作った。
 溝を掘り、区画する。その全てを両の手でする。
 ある日、白虎が道具を銜えてやってきた。
≪人が使う物だ。土を掘り起こす時に使うらしい。使い方を知りたかったら仙人を呼ぶ≫
「えっ? 天帝に許可なく誰かを呼んでもいいんですか!?」
 驚いた勢いで、白虎を掴んで聞いていた。
 ザキーレの動きが、驚きの余り止まっていた。そのザキーレを見て、自分が白虎の体を掴んでいることに気付き慌てて手を離す。
 すると彼は大声で笑い出した。
(お〜 白虎様って笑うんだ)

≪よく覚えておけ。我は天帝より位が上だ。我の認めた者が浮島への上陸を許される≫
「はい」
≪これからはお前が認めた者の上陸を許そう≫
「…」
 余りの驚きに言葉を失った。
「いえ、ちょっと待って下さい」
 リューシャンは戸惑っている。こんな風に信頼を寄せられたのは初めてだ。
≪あのシヴァが認めた。我に依存はない。そして…≫
 ザキーレを見た。
 そして白虎は彼に寄ってゆく。
≪こやつの魂を預かった。リューシャンは此処では自由だ≫
「駄目です! ザキの魂は駄目。私の魂をあげます。我が儘言うのは私だから。だからザキの魂は返して下さい」
 白虎はザキーレを見て、そして再び笑った。
≪知ったらきっとそう言うだろう、と聞いておるわ。魂を取ったりはせぬ。万一何かが起こった時に、ザキーレを救う為に預かるのだ≫

 自分に何かがあったらリューシャンは生きてはいない。だから、万一何かがあったらほんの少しの時間でいい。私の“魂の刻”を長らえさせて下さい。その為なら何でもします。

 白虎の脳裏に初めて合った時のザキーレの言葉が蘇る。
 我が恐くはないか、という白虎の言葉に、リューシャンを失うこと以上に恐いことはないと言い切った。
≪お前たちの望みは?≫
「天界に、リューシャンの居場所を下さい」

 そしてこの美しく青い龍に、西の土を預けようと白虎は天界に来て初めて思ったのだった。
 リューシャンは、ザキーレの言う万一の為の珥堕を施す。
 万が一、ザキーレの身に何かが起こったら、この珥堕が白虎の力を呼び起こす。
 しかし、万が一などある筈はないとザキーレは笑う。その笑みに白虎もまた同じように云うのだった。
 それからも二人と一匹、日がな一日土地を耕し過ごしている。

 それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】

著作:紫草


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