大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――
≪お前が上からやって来た龍か≫
リューシャンが来る前に、天界を調べろとの長の命だった。
しかし知る者もなく右も左も分からぬ処では、まさしくお手上げ状態だったのだ。
ザキーレが頼ることのできる唯一の相手、それは東に棲まう青龍だけだった。
東には常に雨の降る処があると聞いた。
この季の中で常に雨が降るということは、そここそが青龍の居る場所だと思った。
「ザキーレと申します。後日、一人本物の安定を齎す者がやって参ります。私は、その前に此処を調べるため遣わされました。天上界へ報告するには、青龍様の水脈をお借りするしかありません…」
ザキーレは顔を上げることなく、言わなければならないことを淡々と話してゆく。
すると次第に雨が上がり始め、目の前に見事な青龍が現れた。
≪天上界から頼むと云ってきている。この屋敷の前に池が在ったろう。あれが龍族へ続く水脈だ。好きに使うがいい≫
ザキーレは深々と頭を下げ、礼を述べた。
≪お前自身が青龍として、天上界の東を治める筈ではなかったのか≫
それに対し、はっきりと首を振り何も言わず龍は去った。
≪少なくなった本物の剣を持つ龍。あやつを出すだけの価値があるというのだろうか≫
遠く龍族の仲間から聞いたことがある。
春宮が二人いる天上界が存在していると。
いくつかの龍族同士は均衡を保ち存在を続け、選ばれし龍が四神として別の世界へ送られる。
あの時の春宮、知らせは彼からのものであると感じた。ということは春宮が、次の青龍にと望んだ者が今去った龍だ。
あちらこちらの世界に最近、安定を施す者が必要とされている。
維持神は、手を貸すだろうか…
否、最高神に役目などない。
今度、下りてくる者をシヴァが迎えにゆくと聞いた。
また何か気が向いたのだろうか。それとも、いつものように人が好きだからと煙(けむ)に巻くだろうか。
青龍は物思いに耽りながら、再び雨の中に姿を隠した。
雨の中の東の土地も、最近、不穏な空気を滲ませている。
それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】