大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――
嘗て、青龍刀を手に入れようと、無茶なことを云ったことがある。
今思えば、単なる我が儘だった。
だが本当は、自分の作ったサーベルを贈ろうとしただけだ。
リューシャンだけでなく、ザキーレも特別なのだと伝えたかった。
なのに何故、あんなことを思ってしまったのだろう。
彼奴の持つ、あの美しい青龍刀を手に取ってみたいなんて。
いや、それだけではない。それを口にしてしまった時、リューシャンがあんなことを言わなければ…。
『龍が自分の剣を預けるなど、余程信頼していなければ有り得ない』
それを預けられているリューシャンと天帝である自分との差を思い知らされたようで、宮殿に納めよと命じた。
そのようなこと、できる筈がないと分かっていたのに。
今思えばリューシャンが天帝を避け始めたのは、これがきっかけだったかもしれない。
何故ならザキーレの剣は、ただの剣ではない。命と同じ意味を持つ青龍刀だったのだから。
それを知ったのは、ふたりが白虎に許されて浮島へと上がった後だった。
天帝は決して、ふたりを引き離そうとしていたのではない。
今では誰も信じてくれないが。
特にリューシャンは未来永劫、許してはくれないだろうが。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
どうして受け入れてくれないのだろう。
我は天帝だ、という重みに耐えかねていたというのか。
それでもリューシャンが一言、一緒にいると言ってくれていたのなら…
取り返しのつかぬこと。
白虎の許しなく一角獣に乗った。リューシャンの許しなく浮島へ上がった。そして龍族であるザキーレを青龍刀で切ってしまった――。
あの時、ザキーレの珥堕の封印が発動していた。シヴァが云うより早くそれは施してあった。それが何を封じたものなのかは分からない。
ただ天帝はシヴァに云われた通りにするしかなかった。首飾りをザキーレにかけ、リューシャンのことを封印する。もし珥堕の封印がリューシャンのことに関するものであるなら、命を落とすかもしれなかった。
でも、リューシャンに聞くことはできなかった。リューシャンの精神はザキーレの腕を消さないように、何処かへいってしまったようだったから。
人の世での力の封印は、いつかは解ける。それでも、それまでリューシャンを忘れさせてやりたかった。
引き離す為ではない。憶えていたら、ザキーレが苦しむと思ったのだ。
しかし誰もそうは思わないだろう。
最早、ふたりと同じ時を生きることは叶わぬかもしれない。
ザキーレはシヴァに守られ、人の世に落ちた。
リューシャンは、誰かの指図で人に生まれ変わった。
そして多くの天人が、ふたりを落としたことを責めている。
それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】