大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――

『思ひ出語り/天界12』
要1

――これを読んだ直後、宮殿に集まること。他言無用――

 初めて聞く、問答無用の命令。
 天帝が下す命令書は、一角獣に託され浮島に運ばれる。
 いつもなら、のらりくらりと下りることを渋るリューシャンだったが、今回ばかりは様子が違うとザキーレと共に従った。

 初めて、重鎮ともいえる役人勢揃いの場所に出た。
 考えていたのよりも更に多くの役人が集められている。
 リューシャンは何が起こっているのか、皆目見当がつかなかった。
「宮殿から重大なモノが盗まれた。皆、すぐに各地全域を調べること。尚、発見した場合の処置はその場に通達する」
 それを聞き終わると、そこに集められていた者たちが全て部屋を飛び出していく。
「待って!」
 リューシャンは一人の男の袖を掴んで引き止めた。
「何だ」
「何を探したらいいのか、あれでは分からぬ。各地と言うからには、自分が棲む場所という意味だ。なら、どんな物でも入ることはない。私は帰っていいのか」
「お前、捜しモノを知らないのか」
 リューシャンはザキーレと顔を見合わせ、頷いた。
「俺では話せない。天帝の所へ行こう」

「消えたのは此処にいるべきモノだ。一緒にいる男を捜せ」
 天帝は何も見えない部屋を指し、この部屋にいなければならないモノを説明する。
 ところが、そのものずばりと云うわけではなかった。
「それじゃ分からない」
「お前なら分かる。リョクジンかと問えばいい」
 こんな天帝の焦りまくる姿は見たことがない。
 いつものように、突っかかってやろうかとも思ったが止めておこう。
「リョクジンだな」
「あゝ。それが連れている者を連れてこい」

 全く、簡単に云ってくれる。
「で、何処を探すんだ」
 天帝もエレという役人も、余程焦っているのだろう。
 リューシャンが何処に行けばいいのか、考えていなかったようだ。
「一緒に行こう。かなり離れた所まで行くがいいか」
 浮島を探す必要がない以上、仕方がない。
 天帝に頭を下げ、そのままエレの後を追う。
(しかし、そんなに大事なモノなら鍵でもかけとけ)
 と思ったら、エレが笑う。
 おや、こいつ人の内が視えるのか。
「天帝が鍵をかけられたら、きっとそうしてる。鍵の替わりに封印してあった筈なのに、いなくなったんだ」
 いなくなった!?
「探し物は、人か」
「要の者だ」
 なん…だって。

 封印したのは、リューシャンだ。
 あの時。あれが生まれた時、封印したのは複数いた。それを全部外したというのか…
「見つかったら、どうなる」
「天帝がお決めになる」
 その時、爆発音がした。
 更に離れた処に在った、見慣れぬ建物が崩壊し煙をあげている。
 人の影はない。
 しかし、そこにあの者がいたのは確かなようだ。
「宮殿に戻ろう」
 リューシャンは封印した者の任として、あの者の後を追った。

 それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】

著作:紫草


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