大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――
幻獣に感情などない、と人は言う。
我に心などないとも、そやつは言う。
美しい姿に引き寄せられた、と言いながら、自分の思い通りにならないと知ると手を離した。
否、それだけではない。
浮く島へ往け、と命じたのだ。
我には簡単なことであろうと。幻獣は、孤独に慣れているとも。
確かに、飛ぶことなど簡単だ。隠している翼を出せばいい。ほんの一瞬、そこへ往きたいと願えばいい。
ただ、だからと言って孤独に慣れているというのは間違いだ。
仲間の場所から勝手に連れてこられた、此処に置く為に。
誰が仲間から離されて、淋しくないと思う。
そのような権利は誰にもない。たとえそれが、この天界を治める者だとしてもだ。
我が獣だと言うなら、何故、連れてきた。
此処は、何処だ。
何故、還れない。
我は、ただ還りたかっただけなのに。
『天狼星に向かって飛べ』
その声は、優しく響いた。
「誰だ!」
『白虎だ』
何!?
白虎とは、あの四獣の白虎か。
『此処に棲まうこととする。天との橋を頼めるかな』
その言葉は、我にか。
「我は幻獣。天人を乗せることはできぬ」
『そうだな。では、いつか… お前自身が気に入って、乗せたいと思う者が現れたら乗せてやってくれればよい』
姿を見せることはない。
それでも彼は優しかった。
「いいだろう。それまで、浮く島の門番をしてやろう」
のそり、と動く気配がした。
白い綺麗な虎。
『お前の姿には叶わぬさ』
そう残した白虎の声に、笑いが混じった。
これより二頭が、浮く島の住獣か。
遥か永い時を、二頭は共に暮らすこととなる。
この一角獣が果たして、人を乗せることがあるのかと思いながら…。
それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】