大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――

『思ひ出語り/天界13』
一角獣

 幻獣に感情などない、と人は言う。

 我に心などないとも、そやつは言う。
 美しい姿に引き寄せられた、と言いながら、自分の思い通りにならないと知ると手を離した。
 否、それだけではない。
 浮く島へ往け、と命じたのだ。
 我には簡単なことであろうと。幻獣は、孤独に慣れているとも。
 確かに、飛ぶことなど簡単だ。隠している翼を出せばいい。ほんの一瞬、そこへ往きたいと願えばいい。
 ただ、だからと言って孤独に慣れているというのは間違いだ。
 仲間の場所から勝手に連れてこられた、此処に置く為に。
 誰が仲間から離されて、淋しくないと思う。
 そのような権利は誰にもない。たとえそれが、この天界を治める者だとしてもだ。
 我が獣だと言うなら、何故、連れてきた。

 此処は、何処だ。
 何故、還れない。
 我は、ただ還りたかっただけなのに。

『天狼星に向かって飛べ』
 その声は、優しく響いた。
「誰だ!」
『白虎だ』
 何!?
 白虎とは、あの四獣の白虎か。
『此処に棲まうこととする。天との橋を頼めるかな』
 その言葉は、我にか。
「我は幻獣。天人を乗せることはできぬ」
『そうだな。では、いつか… お前自身が気に入って、乗せたいと思う者が現れたら乗せてやってくれればよい』
 姿を見せることはない。
 それでも彼は優しかった。
「いいだろう。それまで、浮く島の門番をしてやろう」
 のそり、と動く気配がした。
 白い綺麗な虎。
『お前の姿には叶わぬさ』
 そう残した白虎の声に、笑いが混じった。
 これより二頭が、浮く島の住獣か。
 遥か永い時を、二頭は共に暮らすこととなる。
 この一角獣が果たして、人を乗せることがあるのかと思いながら…。

 それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】

著作:紫草


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