大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――
迦楼羅の力が発動して、一ヶ月が過ぎた。
そして露智迦と伽耶は、いよいよ迦楼羅を朱雀に逢わせようと思った。
「朱雀に逢いに行こう」
それを聞いた迦楼羅の表情は、みるみる強張っていった。
「朱雀…様って神様よ。逢えるの!?」
「絶対会えるとは限らない。ただ俺はともかく、迦楼羅と露智迦は逢えると思うよ」
伽耶が横から口を挿んだ。
どうして、という顔をして伽耶を見る。
「それを知るために逢いに行くんだろ」
伽耶は、いつものように頭をぐりぐりと撫でてくる。
露智迦の顔を見てもただ微笑んでいるだけで、何も話す気はなさそうだった。
「どこへ行けば逢えるの?」
そこで二人は、揃って答えた。
『南』
それは分かるよ、私がいくら子供だからって…
余りに強く思ったためか。何も言っていないのに、二人がこれまた同時に笑い出した。
「とにかくさ、暫く郷を空けることになる。身代わりを置いた方がいい」
露智迦と二人、結界点に置く人形(ひとがた)を作ることにして、伽耶は一足先に旅立った。
「露智迦。私は土蜘蛛なの」
「違うよ。お前は… 否、全ては朱雀に逢ってからだ」
気にするな、と露智迦は言う。
しかし不安は消えない。
あの鬼のような母を見た翌日。迦楼羅はおばあの許に連れて行かれた。
その場で露智迦によって、何かの“おまじない”をされた。
どんなに聞いても、何をしたのか教えてくれない。
そして今度は、朱雀に逢うと言う。
自分には、何か良からぬものが憑いているのかもしれないと思った。
「できたか」
「あ、うん」
「なら、置きに行くとしよう」
そう言うと露智迦は人形を持って先に出る。迦楼羅もまた二個の人形を手に取り、外に出た。
待っている露智迦の横顔が、夕陽を浴びて光って見える。
「行こうか」
歩き出す彼の背を追って、小走りに付いて行く。
四神の存在は迦楼羅にとって、まだおばあの御伽話の中のことである。
その彼女が、朱雀の前に立つのは間もなくのことになるだろう。
それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】