大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――

『思ひ出語り/天上界4』
大地震

 地面が動いた。
 それも天上界全体を揺らす程の大きな揺れで。
「何があった」
 長が、水鏡を覗く。
 果たして地上界も、大地震に見舞われていた――。

 龍族の統べる天上界。
 この揺れは天上界だけのものではなさそうだった。

 長老の一人が、近づき告げる。
「リューシャンに何かあったかの」
 それは長の脳裏にも浮かんだことだった。
「ヴィシュヌを呼ぼう。どの道、此処も維持神の力が必要だ」
 長老が分かったと去ると、入れ替わるように多くの龍が集まってくる。
 何が起きたのか。
 それを探ることは後回しにするしかなかった。

 ヴィシュヌは世界の維持を司る、最高神のひとり。
 シヴァ程世界と関わりを持つことはないが、ブラフマー程無関心でもない。
 現在、どの世界も彼の力を必要とした。
 珍しく駈け巡る神は、四神に力を借りている。
 其々に住まう四神は力を貸す。そうしなければ間に合わない程の衝撃を起こした何かがあった。
 それは、やはり、リューシャンかもしれない。
 長の内に予感が走る。
 そうしていても、龍たちからの連絡は続々と入る。
 山の一つが崩壊した。この天上界では、それが一番の被害だろうということだ。
 ヴィシュヌを待つだけでは耐え切れないかもしれない。
 長は玄武の力を借りる為、数百年振りに北の山を昇ることとした。

 それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】

著作:紫草


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