大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――
龍族の統べる天上界。
ここにも当然、四神は在る。
ただ余程のことがない限り、四神は姿を現さない。いつも決まった場所にいて、夫々を牽制し世界を守る。
「玄武様」
来る途中、崩壊したという山の残骸を目にしてきた。
まさかとは思うが、玄武そのものに何かがあったかもしれないと長は思う。
だからこそ、恐る恐る声を掛ける。
声の振動で再び震動が起こっても困る。
だが何処にいるのか分からない玄武に向かい、精神から言葉を送ることなどできなかった。
≪我は無事ぞ≫
山の奥から声が届いたのは、半時ほど経ってからだった。
≪ひどい揺れであった≫
玄武は、ゆっくりと山から出てきた。
「はい。何が起こったのか、詳細はつかめておりません」
長は彼の前に跪き、答えた。
≪土地を守るは我の役目。此処は持ちこたえておく≫
そう云ったかと思うと、甲羅から伸びるだけの首を伸ばし空を仰ぐ。
≪朱雀の力を借りることになるであろう。龍たちの移動を頼む≫
そして再び山の奥へと戻ってゆく。
「玄武様。リューシャンが視えましょうや」
≪生きておる≫
その一言だけを残し、もう何も聞くことはできなかった。
それでも、その言葉だけで良かった。
長は屋敷へと戻り、皆に玄武と朱雀のことを告げた。
天上界ですら、この有様だ。生きていてくれたら、それでいい。
ここで何があったとしても、手を差し伸べてやることはできないのだ。
それは、この先も同じ。長として龍族を守る義務がある。
だからこそ、生きていると分かれば、もう何を聞いても意味はない。
その後のリューシャンの暮らし、それを知る術を考えよう。
長は、初めて皆に秘密を持つこととなった――。
それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】