大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――

『思ひ出語り/地上界15』
迦楼羅6〜覚醒〜

「綺麗なもんだなぁ〜」
 伽耶の言葉は、皆の言葉だ。
 朱雀の許しを得て、迦楼羅は初めて皆に炎を見せた。
 初めて朱雀の許を訪れてから、六年の月日が経っていた――。

 広場に集まった郷の皆は、円形に迦楼羅を囲んでいた。その中心に立った迦楼羅は気持ちを集中させる。
 すると体が熱く反応し、その掌に灯火が浮かんだ。
 皆が、驚きで息を呑む。
「お前に火の力が宿ってよかった。お前なら、力を暴走させ郷を焼き尽くすこともないだろう」
 長が、皆にも聞かせるように静かに語る。
 その時、郷の夜の空を真っ赤に燃える翼を持った綺麗な鳥が飛んでいった。
「朱雀か」
 伽耶が呟く。
 皆が、それを聞き掌を合わせて見送っていた。
「迦楼羅は火の力を持った。それは朱雀になったということなのか」
 郷の男が問う。
「違う。私は朱雀ではない。私は…」
 そこで皆の後ろに控えるように立っていた露智迦に目を向ける。
「人だ。少しだけ火を扱えるだけの、ただの人。そうだな、露智迦」
 ああ、と彼が答えると、皆がそれだけで納得していた。

 おばあの言葉には、いつも助けられる。今回も、皆が怯えることのないよう露智迦に大丈夫だと意思表示をさせると言った。
 今の皆は、露智迦の言葉に安心し迦楼羅を受け入れた。
 露智迦は水の龍。何かがあっても、大丈夫だと伽耶の言葉も後を押す。
「露智迦が水の龍なら、迦楼羅は火の龍だね」
 迦楼羅が面倒を見ている捨てられてきた児が、そう言って迦楼羅に抱きついてきた。
 もっと近くで見せて、と言いながら迦楼羅の掌を覗き込む。
 それがきっかけとなったように、子供たちが彼女を取り囲んだ。

 長が露智迦に言葉を掛ける。
「朱雀様が見ている。もう安心だと伝えてくれ」
 黙って頷き森の中に消えてゆく露智迦を、目の端に捉えながら迦楼羅は子供たちとひとしきり戯れた。
 今後必要な時には、長から声がかかる。それ以外に迦楼羅から火の種を貰うことは禁じられた。
 そして迦楼羅はこの先の、火の種を長くその身に潜ませるのだった。

 それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】

著作:紫草


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