大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――
誰かが呼んでいる。
とても優しく、早く早くと話してる。
それは、よく知る人の声音。
安らぎと暖かさと、そして愛情を含む声。
ああ、起きなくちゃ。
あの人が待っていてくれるなら。
早く起きなくちゃ。
あの人の瞳に包まれたいなら。
迦楼羅は少しずつ、大人になる。
細胞が活性化したように、体がどんどん女になる。
そんな変化に戸惑って、迦楼羅は眠る。
抱かれた腕は強くって、逃げようとしても摑まって、少しだけ知らない露智迦を見るようで…
でも全然、恐くなかった。
突然の抱擁に驚いたけれど、前から大人たちにからかわれていたから、何となく知っていた男と女のこと。
ただ誰も、露智迦を差し置いて迦楼羅に手をだそうとしなかったから。だから、迦楼羅は初めて訪れた露智迦にどうしていいのか分からなかった。
母の濁った欲望が見えるようになった時、母が露智迦を恋しいと思っていることに気付いた時、そして迦楼羅自身が露智迦を男だと意識した時、絶対この男が欲しいと思った。
そして抱かれた後、絶対、離れたくないと思った。
でも…、露智迦は大人で自分は子供。だから彼は別の女の許に行くことがあるかもしれないと思った。
ならば眠る。
いっぱい眠って、露智迦の隣にいても子供扱いされないようになるまで眠り続ける。
今度、目が覚めたら、迦楼羅は露智迦のモノになる。
それだけを夢見て、迦楼羅は眠る。
体の内で、火が目覚めた。眠りながら、迦楼羅は悟る。
そして火を閉じ込める、露智迦と生きる郷のために…。
「目が覚めたか?」
それは何度も夢に見た露智迦の声。
少しずつ少しずつ声のする方に視線を移す。
あ。露智迦だ。
迦楼羅が微笑むと、露智迦も微笑み返す。
やがて彼の唇に触れられて、そこに彼を確認すると迦楼羅は本当に目を覚ます。
「待ちくたびれた。もう、こんなに長く寝るな」
そんな彼の言葉が、体を響きながら聞こえてきた。
そうだね。
もう大丈夫。迦楼羅は彼の体をしかっりと抱き、はっきりと告げた。
「露智迦。私はお前のモノになる」
その言葉を聞き、彼もまた、はっきりと答えた――。
それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】