大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――
人の世がある。
人界は、神が世を興したと神話は語る。
同じように、天上界もまた存在した。
天帝は、彼自身の世を創造し、天人を配す。
それが総てを司る、創造神の許に興されたのか否かは分からない。ただ天帝の治める天界は、人の世との結びつきが強かった。
行き来する神と人。天界と地上界。そして龍族の治める天上界。
龍族は時に天界へ龍を送り、天界は地上界へ天人を送る。
水の脈(みち)を使って往き来する龍族と同じように、直接下へ降りたり、また人として生まれ変わったりと様々だった。
天帝が治めようとしていた天界は、やがて意志を持ち始めた天人たちにより形を変え始める。
「思い通りになる奴ばかりを配して何になる」
天帝の無邪気な行いは、龍の長老たちには受け入れられず、彼の創った天界は天上界との間に距離をおかれた。それでも彼は無頓着に、意志を持つ者を優遇する。
やがて意志を持った者たちが集まり、天帝の下で働き始めた。
それは天帝の望む形だったのか。
天帝自身の意志は、どこにあるのか。
お気に入りの取り巻きばかりを配したわけでは決してない。
だからこそ、天帝の思い通りにいかない政(まつりごと)にも従った。ただ彼にも感情はある。気に入った者と、そうでない者。その境にいる者は天界を追われることも多かった。
天界に浮かぶように存在したから、浮島。
天帝は、そこに天上界からやって来た一人の女を置いた。彼女を迎える為に一足早くやって来ていた男も、一緒に往くと云う。
女の名はリューシャン、龍の形ではなく人の形をとっていた。
共に浮島に昇ったのは、リューシャンの魂と結ばれたザキーレという名の龍だった。
二人と天帝との付き合いは、まるで痴話喧嘩の様相を呈した。怒ったり喜んだり、時にやきもちを焼いたりと、それはまるで人のような感情だ。
そして浮島に於いて作られる果実の数々は、天界で暮らす者たちを潤すことになる。
好意という感情も欲望も、天人には無いものだ。少しずつ変わっていることに天帝は気付いていたのだろうか。
が、今はまだ天帝の手の中に天界を統べる力がある。
そこから生まれてくる不都合は、どこかのバランスを崩してゆくのかもしれない。
天界の行く末は…
地上界の今後は…
それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】