大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――

『思ひ出語り/地上界7』
サクジン2

 あの日。
 都から付いてきた女を連れ帰った男は、そのまま女と暮らし始めた。
 孤児同然の女は村の者とも比較的、すぐに打ち解けた。姿なんて関係ない。力なんて関係ないと。そして人が寄り添って暮らすのは楽しい、とも。

 伽耶は男の親友であり、長とは別に村を統べていた。
 その伽耶が、男を笑う。
「お前が人の女を相手にするとは思わなかった」
 と。

 やがて女が男の種を孕んだ、と悟る。
 長やおばあは喜んだ。勿論、男も喜んだ。力のある者の子を孕むと命を落とす人は多かった。
 が、女は身ごもったまま、ちゃんと生きていた。
 このまま赤子を産み落とし、村での幸せな暮らしが続くと信じていた女は、この後の己の変貌を想像することができたろうか…。
 そんな頃。
 突如、天界へと呼び戻される男。
 一体何が起こったのか。まるで分からぬまま、彼は天へと還って往った。

 残された女の許に、男の親友だという男が遣わされる。
 彼は、その名を露智迦と云った――。
 露智迦と名乗る、この男とも親友であった伽耶は久方振りの再会を喜んだが、女もまた、彼に恋心を募らせてゆくことになろうとは、この時はまだ誰も予想だにしていない。

 それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】

著作:紫草


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