大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――
深夜。
暗闇に下り立つ、三つの影。
此処が、この後、千年以上の永きに渡り戦禍と血の歴史を繰り返す帝都の南の門である。
平安遷都が行われてより数ヶ月。
多くの人が移り住んだ平安京は、かつての平城京や長岡京と同じように、南の門を朱雀門と名付け、都城正門の羅生門へと向かう路を朱雀大路と呼んだ。
「此処が朱雀門」
そう言いながら門を見上げる迦楼羅。
「あゝ」
その迦楼羅の言葉に、同じように門を見上げ頷く露智迦。
そして一人、門の真下に立ち、羅生門を見据えている伽耶。
「平城京よりも大きいことだけは確かだな」
その伽耶の言葉に、彼を見る露智迦。
「お前は、いつも人と違うところを見ている。それが身についた習性というものだろうな」
そして露智迦も習って羅生門を見た。
「此処に朱雀の証を埋める」
迦楼羅の、その言葉に二人が意外な顔をする。
「門に納めるんじゃないのか」
「朱雀は火を司る。火はものを焼き、灰にして土に還す。だから土に埋める」
そう言って懐から、先代の朱雀から預かった証を取り出した。
「露智迦は神泉苑へ。此処は一人でいい」
迦楼羅のその言葉に頷くと、露智迦は朱雀大路を歩いて行った。
「露智迦も証を埋めるのか」
「否。露智迦は沈めるんじゃないかな。神泉苑の水の底に」
そして迦楼羅は証を埋めた――。
暫くして露智迦も戻ってきた。
「もう終わったのか」
「あゝ。次の守りは別の青龍が引き継ぐだろう。それまで、見守るだけだ」
その言葉に、そうかと伽耶は頷いた。
「飛鳥にいた玄武様が北山に棲むと聞く。我等も、そこへ行こうと思う」
そう言った露智迦を、迦楼羅が見た。
お前と違って瞬時に葛野へ来るのは無理だからな、と露智迦が笑った。
「長もいない。おばあもいない。露智迦と迦楼羅と、俺の三人で新しい郷を創るんだ」
「伽耶…」
もう少し。
なうらの寿命が長ければ…。
しかし、それは言っても詮無きことだ。
長寿の我等にも寿命はある。
「なうらは、いつ生まれ変わるかな」
伽耶のその小さな呟きを、露智迦は聞き逃さなかった。
「きっと、大急ぎでやってくる。迦楼羅も同じだ。何度、生まれ変わろうと俺たちは待てるだろ」
見れば伽耶の瞳が潤んでいる。
「それに子らがいる。なうらの遺した子は、まだ幼い。少しは自分で育てろ」
「そうだな。あいつ等は、平安京へ来るのだと楽しみにしていたからな」
そう口にした伽耶が、なうらを亡くしてから初めて心の底から笑った。
玄武に許しをもらい、嵐山の一画に郷を開いたのは、これから暫く後のことである。
しかし、その地に露智迦が暮らすことはなかった――。
それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】