大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――

『思ひ出語り/地上界51』
伽耶4〜長岡、そして葛野へ〜

 伽耶は様々な郷や、都を渡り歩く。
 政治の中心に身を置く人とも、関わりを持つ。
 だからこそ、都の異変に気付くのは早かった。

 以前、飛鳥から藤原、そして平城京に遷都があった時も同じような気配を感じた。
 何かが変だという感覚。
 桓武天皇は、栄えぬきの天皇とは思われず、敵対する家臣に囲まれていた。力を増した僧侶にも頭が上がらないように見える。東大寺から見下ろされるのは如何なものか、と思っても口にすることはできないようだった。

 また遷都があるのだろうか。
 平城京に遷って、七十年ほどか。
 側近に近づいてみるのもいいかもしれないと、伽耶は思っていた。

 このところ、おばあに頼まれて遠くの集落まで出かけることが多かった。
 そのため、郷にいるのが極端に少なくなっている。
 以前は感じたのことのない、この胸騒ぎのような感覚は、なうらに会えないことからくる不満からかもしれない。

 やがて藤原家の近しい者に近づくことになった伽耶は、長岡との往来の多さに違和感を持った。増える狩り。
 伽耶は探りを入れる。
 種継の姿を長岡に見た。
 間違いない。遷都はある。

 伽耶は長に、それを伝えた。
 しかし長は、飛鳥を離れるつもりはないと云った。
 露智迦と迦楼羅は、長に倣うと言うだろう。
 今の郷に移り住み、長い歳月が経っている。
 我等のような郷は、あまり動かぬ方がいい。今の処なら、土蜘蛛やその他の異形の者とも約束事ができている。
 しかし伽耶には、視得ている未知があった。長岡の土地よりも更に北の土地に、迦楼羅に似た女を視た。たぶん、あれは迦楼羅の子だろう。
 ならば長岡ではなく、更に次の場所へ動かねばならない。
 朱雀と青龍が飛鳥に残ったままでは、國が荒れるかもしれない。
 四神が身近でなくなった人にとって、神は都合のいい頼みごとをする存在と化していた。僧侶が権力を持ち、政治の世界にまで影響を及ぼすようになっている。
 視得ていることは、全てが真実になるわけではない。
 どこまで話すべきか。伽耶は悩み、結局、露智迦にだけ打ち明けた。

 露智迦には一蹴された。
 迦楼羅も、すぐには動かぬという。
 そんななか、いつものように長く郷を空け戻った時のこと。
 伽耶は、なうらの死に対面することとなった――。

 郷に未練はなくなった。
 伽耶は、長岡にも家を持ち、郷と行き来するという形をとるようになった。
 やがて十年の歳月が流れ、桓武天皇は再びの遷都を決める。
 今度こそ、葛野に移ろうと心に決めた。
 間違いなく、そこが永く帝が君臨する帝都となる筈である。

 それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】

著作:紫草


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