大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――
伽耶は様々な郷や、都を渡り歩く。
政治の中心に身を置く人とも、関わりを持つ。
だからこそ、都の異変に気付くのは早かった。
以前、飛鳥から藤原、そして平城京に遷都があった時も同じような気配を感じた。
何かが変だという感覚。
桓武天皇は、栄えぬきの天皇とは思われず、敵対する家臣に囲まれていた。力を増した僧侶にも頭が上がらないように見える。東大寺から見下ろされるのは如何なものか、と思っても口にすることはできないようだった。
また遷都があるのだろうか。
平城京に遷って、七十年ほどか。
側近に近づいてみるのもいいかもしれないと、伽耶は思っていた。
このところ、おばあに頼まれて遠くの集落まで出かけることが多かった。
そのため、郷にいるのが極端に少なくなっている。
以前は感じたのことのない、この胸騒ぎのような感覚は、なうらに会えないことからくる不満からかもしれない。
やがて藤原家の近しい者に近づくことになった伽耶は、長岡との往来の多さに違和感を持った。増える狩り。
伽耶は探りを入れる。
種継の姿を長岡に見た。
間違いない。遷都はある。
伽耶は長に、それを伝えた。
しかし長は、飛鳥を離れるつもりはないと云った。
露智迦と迦楼羅は、長に倣うと言うだろう。
今の郷に移り住み、長い歳月が経っている。
我等のような郷は、あまり動かぬ方がいい。今の処なら、土蜘蛛やその他の異形の者とも約束事ができている。
しかし伽耶には、視得ている未知があった。長岡の土地よりも更に北の土地に、迦楼羅に似た女を視た。たぶん、あれは迦楼羅の子だろう。
ならば長岡ではなく、更に次の場所へ動かねばならない。
朱雀と青龍が飛鳥に残ったままでは、國が荒れるかもしれない。
四神が身近でなくなった人にとって、神は都合のいい頼みごとをする存在と化していた。僧侶が権力を持ち、政治の世界にまで影響を及ぼすようになっている。
視得ていることは、全てが真実になるわけではない。
どこまで話すべきか。伽耶は悩み、結局、露智迦にだけ打ち明けた。
露智迦には一蹴された。
迦楼羅も、すぐには動かぬという。
そんななか、いつものように長く郷を空け戻った時のこと。
伽耶は、なうらの死に対面することとなった――。
郷に未練はなくなった。
伽耶は、長岡にも家を持ち、郷と行き来するという形をとるようになった。
やがて十年の歳月が流れ、桓武天皇は再びの遷都を決める。
今度こそ、葛野に移ろうと心に決めた。
間違いなく、そこが永く帝が君臨する帝都となる筈である。
それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】