大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――
此処は、何処だろう…
それより、今のこの感情は何だろう…
混沌とした中に在って、ただ静かだ。
まるで体を持っていた頃のように。
存在を、誰かに優しく抱かれているようだ。否、この感覚も変な感じだ。
そう。
まるで迦楼羅という空気の中に、漂っているような…
穏やかな刻み。
≪シヴァがリューシャンを気に入ったと聞いた時、天界はシヴァを味方に付けたのだと思った≫
そう云った声が、突然聞こえてきた。
≪しかし、それは違った。シヴァはリューシャンを天界から解き放してやりたかったのだ、と後で気付いた≫
その言葉はヴィシュヌのものだと分かる。
しかし何故、その声が自分に届くのだろう。この意識は、何なのか。
露智迦には理解のできないものだった。
リューシャンの封印は、時を少しだけ停めたに過ぎない。
自分は塵となり、風化するように消える。
≪まだ気付いていないのか≫
気付く?
何を…
≪お前は人になるんだよ。浮島の白虎が、龍族の長、東海龍王に、お前を地上界に埋めるように云った。そして伽耶が、白虎から届けられた魂魄を一緒に地上に埋めたんだ。そして彼が、天界とも天上界とも縁が切れると話したそうだ≫
人になる!?
そんな莫迦な…
自分は死んだ、迦楼羅を庇って。
≪そうだな。そして人は生まれ変わる、魂の休息を終えたら≫
生まれ変わる…
俺が…!?
刹那。
意識が形をとる。
俺は生まれ変わる。
≪その魂が充分に休んだら、再び生まれるだろう。今度はちゃんと人として。縁があれば廻り逢う。誰と云わなくても分かるな≫
ヴィシュヌ神。
何故、俺なんかを…
≪シヴァがリューシャンを見守ると決めた時、ワタシはシヴァの想いを大切にしてやりたいと思ったのだ。ワタシも迦楼羅を見守っている≫
この世を司る最高三神。その内の、お二方までもが迦楼羅を見守る。
そして自分も、その渦の中に在るということか。
≪いつか二人の縁が、周りの宿命に勝てた時、再び時は廻り始める。今度は露智迦という名も、迦楼羅という名も関係のない処で≫
それはまだ、迦楼羅の腕に抱かれているような今の時間を、迦楼羅の匂いの中の空間を、このまま漂っていてもいいということか。
人…
迦楼羅は人だ。
人も、まんざら捨てたもんじゃない。
そうだな、迦楼羅…
いつか…
いつか必ず、また出逢う――
それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】