大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――
無意識に露智迦の姿を捜す迦楼羅。
夜毎、空を舞う朱雀の迦楼羅。
それが、ある夜。
突如、止まった。
真っ赤に燃えた龍形の、迦楼羅の飛行線が何処にも見えない。
伽耶が空を見上げた――。
すると飛鳥の山の遥か向こうに、迦楼羅が浮かび留まっている。
何処か、遠くを見つめているような彼女の姿が其処に在る。
伽耶は、そのまま迦楼羅が消えてしまうんじゃないかと思った。そのくらい、人を超えた何かがあるように見える。
「伽耶」
「おばあ。出てきて大丈夫か」
おばあは近頃、めっきり弱くなった。
多くの者が郷を離れ、新しい都へ行くと言う。普通の人として暮らすだけだと言う彼らに、何を云ってももう届かない。
「迦楼羅はどうした」
「分からない。ただ、ああして天空を仰いでいる」
おばあは、その姿を認めると首を横に振る。
「仕方がない。もし迦楼羅がそれを望むなら」
「おばあ!」
おばあは、それ以上は何も云わず去った。
改めて迦楼羅の浮いている方を見る。
すると、その視線に気付いたように迦楼羅が飛んで戻ってきた。
安堵が、全身から力を奪った。思わず、その場に座り込む。
「迦楼羅。お前、ここにいるの苦しいか」
でも彼女は何も答えない。
「露智迦のところに、逝きたいか」
≪つゆ…ちか…≫
「あゝ」
≪私は、生きる。露智迦が生きろと云ったから≫
そう言った迦楼羅の瞳が、金色(こんじき)に輝いた。
「そっか。あいつ、生きろって言ったのか」
なら迦楼羅は生きる。
誰かのためでなく、露智迦の為だけに。
彼奴の匂いの残る、この地上界で――。
それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】