大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――

『思ひ出語り/天界31』
箱庭

 全ては終わった。

 どんな気が向いたのか。シヴァは、此処を残すようだ。
 先日、迦楼羅の声を聞いたのだと云っていた。
 それが、どんな影響を齎(もたら)したのか…

 しかし少なくとも、迦楼羅のことがなければ此処は滅されただろう。
 シヴァは、この天界を、
『たかが箱庭だ』
 と云う。
 でも、その箱庭を、神は見捨てることはなかった。

 いつの間にか、天帝が治める筈だったものが狂っていた。
 そう…
 アニヨンと呼ぶ友が去った時、腹心の部下ともいうべき仲間が去っていった時、副帝が封印に仕掛けを施したと知った時…
 天帝は無意識に気付かない振りをした。
 何かが狂い始めたと、もっと早くに気付けば此処は別の形になったのだろうか。
 しかし、今更何を云っても遅いのだ。

 この後、この天界は神々の意志のもと、形を変えてゆくだろう。
 ただ、天帝がこの地に残ることだけは許されるらしい。
 この浮島も、ヴィシュヌ神の祠がある限り、そして白虎が離れぬ限り、そこに在り続けるだろう。
 ジュラも黄竜として地に下った。戻ってくる者はいなくなった。

 白虎は、いつもの場所に居る。
 もう二度と、彼らのような者に遇うことはないだろうと思いながら。
 全ては、終わったのだ。

 それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】

著作:紫草


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