大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――

『思ひ出語り/天界30』
ジュラ3〜黄竜に、そして人に〜

 ジュラは白虎に頼まれた日より、浮島に在る。
 一時は要の部屋へ行こうとも思ったものの、気持ちが動かなかった。
 リューシャンを人へと変えた張本人である。ザキーレの腕を切り落とした張本人でもある。
 自分が天帝の姿を見た時、どんな行動に出るか。正直、自信がなかった。
 しかし天帝を手にかけてしまっては、白虎との約束に反する。
 ヴィシュヌが建てたという祠に入り、殆んどを其処で過ごした。
 何をするわけでもない。木々の手入れを手伝おうと思ったこともあったが、白虎にやめろと云われた。

≪お前が手を出すと、実るものも実らぬ≫
「ひどいなぁ。どうしてです」
≪お前の手は緑を育てる手ではない。お前の手は、水面(みなも)にあって生きる手だ≫

 結局、それ以降手伝うという言葉を云ったことはない。
 その代わり、ザキーレの水脈を守る。浮島の安定に、どう力になっているかは分からない。
 しかし、白虎は何も云わない。
 だからこそ、ジュラは此処に居る。
 サラに呼ばれる日まで。そして再び地上へ下りるまで、ただ水を守り此処を守ろう――。

 この後、永い歳月。ジュラは天界を守る。
 そしてサラの招きに伴い、黄龍として地上界へ下りた。
 千年の都。平安京に於いての四方を決め、その中央に身を置いた。
 ここでも永い時が流れた。
 そして漸く、寿命が終わる。
 黄龍としての役目は、龍の仲間が引き継ぐことになっていた。最早、何も思い残すことはない。
 ただ白虎との約束だけが心残りだった。
 昔、白虎が云った“人の魂”の話。もし、あれが本当なら、願わくは今度は人として迦楼羅の近くに在りたかった。

 人の世の輪廻転生。
 遠い世、ジュラは人として迦楼羅の魂の生まれ変わりと出逢う。そして彼女の心の支えとなるであろう。
 これはまだ、遠い未知の話である――。

 それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】

著作:紫草


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