大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――
ジュラは白虎に頼まれた日より、浮島に在る。
一時は要の部屋へ行こうとも思ったものの、気持ちが動かなかった。
リューシャンを人へと変えた張本人である。ザキーレの腕を切り落とした張本人でもある。
自分が天帝の姿を見た時、どんな行動に出るか。正直、自信がなかった。
しかし天帝を手にかけてしまっては、白虎との約束に反する。
ヴィシュヌが建てたという祠に入り、殆んどを其処で過ごした。
何をするわけでもない。木々の手入れを手伝おうと思ったこともあったが、白虎にやめろと云われた。
≪お前が手を出すと、実るものも実らぬ≫
「ひどいなぁ。どうしてです」
≪お前の手は緑を育てる手ではない。お前の手は、水面(みなも)にあって生きる手だ≫
結局、それ以降手伝うという言葉を云ったことはない。
その代わり、ザキーレの水脈を守る。浮島の安定に、どう力になっているかは分からない。
しかし、白虎は何も云わない。
だからこそ、ジュラは此処に居る。
サラに呼ばれる日まで。そして再び地上へ下りるまで、ただ水を守り此処を守ろう――。
この後、永い歳月。ジュラは天界を守る。
そしてサラの招きに伴い、黄龍として地上界へ下りた。
千年の都。平安京に於いての四方を決め、その中央に身を置いた。
ここでも永い時が流れた。
そして漸く、寿命が終わる。
黄龍としての役目は、龍の仲間が引き継ぐことになっていた。最早、何も思い残すことはない。
ただ白虎との約束だけが心残りだった。
昔、白虎が云った“人の魂”の話。もし、あれが本当なら、願わくは今度は人として迦楼羅の近くに在りたかった。
人の世の輪廻転生。
遠い世、ジュラは人として迦楼羅の魂の生まれ変わりと出逢う。そして彼女の心の支えとなるであろう。
これはまだ、遠い未知の話である――。
それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】