『海豚にのりたい』
7
イルカ
『私に乗りたい?』
どこからか、そんな声が響いた。
「あ!あなたが話したの? そうよね。そう、乗りたい。私、あなたに乗ってみたい」
すると、イルカがすぅ〜っと近寄ってきた。そして、体を加奈子の方に傾けるように倒す。
『乗ってごらん』
その声はとても優しかった。恐怖はなかった。このまま海中に引きずり込まれ食べられてもいい、とさえ思った。
すると、表情を柔らかくしたように見えるイルカ。
『食べはしないよ。さぁ乗って』
加奈子は自分の思っていたことを悟られ、少しだけ謝った後イルカの背中に乗った。
それは優雅な海の散歩だった。
加奈子には初めてのことばかり。海の匂いが体中に沁み込んでいくようだった。右へ左へ、イルカは加奈子の望むように泳ぎ続
けた。今まで得たことのなかった自由を彼女は初めて手に入れた。本当に嬉しいことの連続だった。
そして、今度こそ本当に思うのだった。
龍神様、有難う。本当に有難う。
加奈子の瞳から涙が一筋流れた──。