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「なぁ〜、桔梗の奴、何か変じゃなかったかぁ…!?」
こちらは桔梗と別れた、菖と摩子である。
鎧直垂のまま着替えようとしなかった桔梗と違い、菖は早々に制服に戻っていた。
部室を出て暫くすると、菖が誰にともなく呟いた。
「そんな事言われても、私には分かんないよ」
「お前に聞いてないだろ」
「じゃ、聞こえるように言わないでよ。紛らわしいでしょ」
摩子は持っていたかばんで、菖の後頭部を一発撲る。
バコッ!
いい音がした。
「いってぇな。何するんだ」
「ふん、何よ。桔梗、桔梗って。そんなに心配なら待ってればいいでしょ」
「あれっ。何、妬いてんの?」
「うるさい!」
そこで再びかばんを持ち上げたが、今度はしっかり見られていた。かばんを取られ…抱き締められる。
「菖。私といる時くらい、私だけのこと考えてよ。普段はちゃんと我慢するから。ね」
「ばぁ〜か。いつも考えてるよ」
えっ? っという表情のあと、摩子の顔が、ぱぁ〜っと明るくなった。
「ほんと? ほんとに、ほんと!?」
「うるさい」
ほら、と、かばんを摩子に投げ、菖は早足で歩き始める。
「ね。菖、顔赤いよ。ね、ね〜ってば‥」
天下の京極菖を、手玉に取る摩子である。
この摩子は、高校から入ってきた新参者である。一年前の入学式、
「最初から今日の船で行くつもりだった」
と言い放った大莫迦者でもある。渡されたプリントをきちんと読めば、当日船の無い事は、中学生の生徒だって知っている。港で大騒ぎして、結局菖のところにまで話がまわり、緊急措置として船に乗せられた。
万が一、本物の生徒でない可能性を考慮して、菖のもとへと連れてこられた。
その時のことを、摩子は“連行された”という言い方を今も使う。理不尽な扱いを受けたことに我慢出来ず、扉が開くと同時に、菖の顔を確認するよりも早く怒鳴りまくった。
唖然とする菖の顔は、いつものポーカーフェイスを忘れ、ちょっと、お間抜けだったかも。
ある意味、この顔の表情を見せたことで、摩子は菖を気に入ったわけだし、菖も、摩子の素朴な人柄(と言ってもいいのだろうか)を好きになった。たぶん、菖にとって、本気で人を好きになった瞬間だったろう。
当然、何のお咎めもなく、その後二人はつき合い始めた。
「あの時、私が当日来ることにしてよかったよね」
「莫迦か。ルールを守らずに大きな口を叩くな」
「でも、私と出会えてよかったでしょ!」
どこか、ボルトが外れている摩子なのであった。
菖とつきあい始めて一年、今も摩子への嫌がらせは収まってはいない。その事をおくびにも出さず、摩子は平気な顔をする。そして、囁くのだった。
「菖が泣くより、ずっといい」
と。
「わかった! 桔梗が菖のこと構ってくれないから、寂しいんだ」
「そんなんじゃない」
さっさと歩いて行く菖。慌てて、追いかける。
「あん、ちょっと、待ってよ…」