第二章

1

「たいしたこと、ないじゃん」

 毎年のことではあるが、入学式を翌日に控え、島は新入生で溢れかえっていた。
 春らしい過ごし易い昼下がり、翌日の為に学校に集まる新入生の顔は、輝いている。
 しかし、その中にあって、そうではない表情を浮かべる者もいた。

 此処では制服を規定されていない。ただ推奨するものとして男女二種類ずつがあり、殆どの生徒は、このどちらかを選んでくる。男子は学ランとブレザータイプ。女子はセーラー服とブレザータイプ。女子の場合は更にスカートとパンツタイプも選べる。どちらの制服のどの組み合わせを選んでも、色は様々に選べるようになっていた。その為、殆どの生徒が制服を着るのである。
 まだ当日ではないので、各々自由な服装でいるのは例年通りだったが、一際目立った格好をしている女子がいた。まだ春だというのに、タンクトップを着て薄手のカーディガンを羽織っている。
 しかし問題は服ではなく、透けて見えている素肌の方だった。
「ちょっと、アレ刺青じゃない?」
 こそこそと、囁き始める生徒が出てきた。
 そう、彼女の左腕には刺青のような模様が見え隠れする。よく見ると、そこには「怨」の一文字が彫られている。
 校舎の前に仁王立ちする彼女の目は、どこか憎しみに溢れていた──。

著作:紫草

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