第二章

4

 ──生徒会室。
 桃子、摩子、そして慎一郎が菖たちを待っていた。
「刺青?」
 そこで慎一郎が、入学式の時の騒ぎについて話していたのだった。
 入学式、タンクトップで登校した生徒の左腕に刺青があると、他の生徒が大騒ぎをして、式が中断したのだ。今、その話を聞かされ、桃子が聞き返した。
「あゝ」
「シールじゃないの?」
 摩子が通販雑誌に載るタトゥのページを開く。慎一郎が雑誌を受け取り、指されたページを眺めていた。
「へぇ、こんなのがあるんだ」
 横から、覗き込んでいた桃子が関心を示した。
「でも文字が彫ってあるって言ってたぞ。ここに載ってるのって絵や記号ばっかりだよな」
「文字? 名前とか?!」
 摩子が不思議そうな顔をした。

 そこに桔梗が入ってきた。
「判った。山科和樹。高校からの入学らしい。俺は寮母先生に聞いたんだけど、特に問題があるようには見えないらしいよ」
「か・ず・き?」
「何、桃子の知り合いか?」
「義妹の名前と同じ。でも山科って名字じゃないし、里親だった両親がバラバラになったから、此処に入るのは無理だと思うけど」
「ふ〜ん。いちお菖に言っとくか」

 遅れて、菖もやって来た。
「菖さん」
 桃子が、今桔梗と話していた事で声をかける。
「ん?」
「今聞いたんですが、私その子に会ってみましょうか。義妹と同じ名前なんです。七年前の姿しか知らないですが、もしかしたら判るかもしれません」
 菖は腕組みをして考えていたが、
「今はいいよ。偶然会って、そうだと思ったら教えて」
「分かりました」
 今度は、桔梗が菖に向かって聞く。
「で?」
「当日の試験は中の上ってとこだった。確かに親の名もちゃんとしてるし、試験官の評価も特に目立ったところはなかった。まぁ、だからこそ大人しくしていたのかもしれないがな。でも、たまたま見られたという服装でないことは確かだ。一人だけ私服で目立ってたし。絶対制服着ろってわけじゃないけれど、まだ夏服は売ってないから、わざと見せたければアレしかないわけだ」
「菖さん、校則で刺青駄目ですか?」
「慎一郎は何て事を聞くんだ。‥そうなんだ、そんな奴が今までいなかったから、刺青禁止という校則はない」
 菖は、肩を落とした。
「来年度には増やすのか?」
「まだ、思案中だ」
 菖は本当に困っているようだ。こんな姿の菖を見るのも珍しい。
(そうなんだ、親に刺青入れてる奴がいる時代の校則だからな。まさに落とし穴だ…)
「とりあえず、その山科和樹って生徒に会ってみないと話にならないね」
 慎一郎が菖にそう言った。

 ところが偶然を待つまでもなく、呼びだすこともなく、その機会はすぐに訪れた。
 何故なら・・。

著作:紫草

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