大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――

『思ひ出語り/地上界10』
露智迦3

 郷の奥にある山。
 自分が落ちてきた山。

 何故だろう。
 皆が迷うという山を露智迦は普通に歩く。

 山深く足を進めると、頭の中で何かが蠢(うごめ)く。
 人の踏み込んだ痕跡がない山奥まで行くと、滝壺があった。
 どこか懐かしいと思える水の音。
 自分は何を求めているのだろう。
 伽耶は言った。
「リューシャンを憶えているか」
 と。
 その名を思うと、頭が割れそうに痛い。
 でも、思い出さなければならないような気がした。

 リューシャン…
 一体、誰なんだろう。

 再び頭が割れそうになる。
 思わず頭を抱えて蹲(うずくま)る。その時、何かが引っ掛かった。
(何だ、この腕)
 自分の腕…だよな。
 でも何処か違和感の残る腕…

 滝から流れる水をすくってみる。
 ちゃんと冷たいという感覚はあった。
 少しだけほっとして、その水を飲んだ。

『駄目よ、ちゃんと煮沸しなくちゃ』

 突然、頭に響いた言葉。
 今のは何だ。
「うわぁ〜」
 それまでにない、激しい頭痛に襲われ思わず悲鳴を上げる。
 きっと、自分には何かある。
 この耳飾りも外せない首飾りも、たぶん何かの封印だ。
 しかしこの封印がある限り、何の封印がしてあるのかを知ることはできない。

 気持ちを集中する。
 川の中に結晶が出来上がる。
(これくらいは出来るか…)
 苦笑いを残し、露智迦は郷への帰路につく。
 でも予感があった。
 きっと近いうちに何かが起こる。
 この封印に深く関わる何か、大切なことが…。

 それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】

著作:紫草


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