大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――
郷の奥にある山。
自分が落ちてきた山。
何故だろう。
皆が迷うという山を露智迦は普通に歩く。
山深く足を進めると、頭の中で何かが蠢(うごめ)く。
人の踏み込んだ痕跡がない山奥まで行くと、滝壺があった。
どこか懐かしいと思える水の音。
自分は何を求めているのだろう。
伽耶は言った。
「リューシャンを憶えているか」
と。
その名を思うと、頭が割れそうに痛い。
でも、思い出さなければならないような気がした。
リューシャン…
一体、誰なんだろう。
再び頭が割れそうになる。
思わず頭を抱えて蹲(うずくま)る。その時、何かが引っ掛かった。
(何だ、この腕)
自分の腕…だよな。
でも何処か違和感の残る腕…
滝から流れる水をすくってみる。
ちゃんと冷たいという感覚はあった。
少しだけほっとして、その水を飲んだ。
『駄目よ、ちゃんと煮沸しなくちゃ』
突然、頭に響いた言葉。
今のは何だ。
「うわぁ〜」
それまでにない、激しい頭痛に襲われ思わず悲鳴を上げる。
きっと、自分には何かある。
この耳飾りも外せない首飾りも、たぶん何かの封印だ。
しかしこの封印がある限り、何の封印がしてあるのかを知ることはできない。
気持ちを集中する。
川の中に結晶が出来上がる。
(これくらいは出来るか…)
苦笑いを残し、露智迦は郷への帰路につく。
でも予感があった。
きっと近いうちに何かが起こる。
この封印に深く関わる何か、大切なことが…。
それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】