大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――

『思ひ出語り/天界26』
仲間〜麒麟〜

 天界の帝が、仲間を連れ去ってより幾星霜。
 結界に阻まれ、天界の内には入ることは叶わぬ。
 それが、どういうわけか。天界の者に呼ばれ、浮島という処へ入った。

 如何に驚いたことか。
 何故なら、その島への入り口に仲間が暮らしていたから。
 もう全ての麒麟が忘れかけていた、美しい代表者“一角獣”
≪何故、此処に…≫
 そう云う彼もまた、ひどく驚いているようだった。

≪維持神に呼ばれたのだ。この空間にある浮島へ行けと。何かを中央に埋めて欲しいと云っておられたが≫
 何も聞いていない、と一角獣は云った。
 そして現れたのは、浮島を守る白虎だった。

≪下の宮殿に要の部屋を造っている。その中央に埋めて欲しいモノがある≫
 白虎はそう云った。
≪我等は、天人の前に出ることはない≫
 彼は、何度も頷いた後で後ろを向いた。
 今まで見えなかった、其処に陰が現れた。
≪我はヴィシュヌ。すまないが、やって欲しい。そうすれば一角獣を手離すことを了承しよう≫

 ヴィシュヌ…
 では、この陰が維持神。
 しかし何故、神が人に関与する。
≪一角獣は、ここの天帝に縛られた筈。何故、貴方が手離す許可を出せるのですか≫
 陰は、当然だと云った。
≪天帝に話をつけたのは、白虎だ。もう仲間の処に戻してやれと。彼は、一人の友人を中央に埋める覚悟をした時から考えていたそうだ。仲間から離してしまった一角獣のことを…≫
≪埋めるのは、人か≫
 白虎と陰は頷いた。
 すると、今度は一角獣が云う。
≪誰を埋めるんだ≫
 これを聞くということは、本当に知らないんだな。
≪サクジンを≫

 その時、麒麟の目には一角獣が慟哭しているように映った。
≪では我は此処を動かぬ。リューシャンの父が天界の中央に眠るなら、我は下を守ろう≫
≪一角獣!≫
 すると彼は、ゆっくりと振り返り自分を見た。
≪もう我を憶えている麒麟は少ない。それよりも此処で、自分の意思を大切にしたい≫
 たかが人の為に、別の世界で暮らすというのか…
≪白虎。我が望むだけ、ここに置いてくれるという約束は≫
≪有効だ≫
 それを聞くと彼は満足そうに笑った。
≪一緒に行こう。宮殿の仕事を終えたら、すぐに去れ≫
 彼の決心は固そうだった。
 しかし何故、仲間より人を選ぶ。
≪獣も人もなく、愛してくれた者を知っている。もう二度と会うことがなくとも、我は彼女に胸を張っていたい。死ぬまで望んだままを存分に生きたと≫
 その言葉を聞くと、陰が実態を現した。
 ヴィシュヌ神…
≪元はといえば、シヴァが彼女を気に入った。シヴァの機嫌を損ねると、麒麟も困るのではないか≫
 シヴァ…
 破壊神に気に入られただと…
≪今、地上界の黄竜の近くに彼女は居る。何処にいてもシヴァは見ている≫
 叶わないな。
≪分かりました。今夜、中央にその天人を埋めましょう。一角獣、君は来なくていい。そのまま消えるとしよう≫

 麒麟が、ふわりと人型を取る。
 人の形は便利だな。何でも器用にこなすことが出来る。
 でも、伝説の一角獣を連れ帰るのには失敗だ。
 いつの日か、我等はまた黄竜を出す。
 龍族より集められし竜。いつしか麒麟と呼ばれるようにもなった。そして、その中から更に選ばれ黄竜の役目に就く。
 その竜が現れるまで、仲間と共に待つとしようか。

 それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】

著作:紫草


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