大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――

『思ひ出語り/地上界41』
龍牙3〜輪廻〜

 人は死に、生まれ変わる。
 彼女の心は死に、そして生き返った――。
 今、此処に。
『生きろ』
 と言った彼の言葉を信じて…。

 真っ直ぐに伸びる、一本道。
 草が抜かれ、土は固められ、等間隔に植えられた木は人の手が加わったことを物語っている。
 多くの山々は自然が育む。人の手が及ばないように、山の守り主が結界を張り人の侵入を拒んでいる。
 しかし山に続く、この道は、いつから真っ直ぐになったのだろう。

 時は平安。都より遠く離れた山間の小さな里のことである。

 自分は今まで何をしていたのか。
 ゆっくり、ゆっくり歩き出す。
 見上げれば、雲ひとつない空が広がる。深く深く、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。研ぎ澄まされる感覚。
 瞳を閉じ、集中する。

(!)

 誰かが、いる!
 足を止め、慌てて辺りを見回すが、人っ子一人いないようだ。再び、意識を集中する。
“超常力”
 人の多くが眠らせる、その感覚を呼び覚ます。細い細い弦のような神経が体中を駆け巡り、自分に彼の存在を知らせている。
 感覚に従い見上げた樹上に、その人の姿を見た。

「そこで何をしている」
 そう声をかけると、彼は初めて、この個体を認識する。
「瞑想」
「そうか」
 返事をすると再び歩き出した。
 すると、今度は後方頭上から声がする。
「待てよ。お前こそ、ここで何をしている」

 その声に振り返った、あくまでも優雅に美しく。
「分からない」
 不可思議そうな思いを浮かべた男の顔。
「お前、名は?」
「何故、聞く」
 男は静かに笑った。
「悪かった。俺の名は龍牙。で、お前の名は?」
「迦楼羅。竜を常食するという、金翅鳥の別名だ」
 そう言った時、迦楼羅の中に全ての感情が戻ってきた――。

 その後、長い時をかけ二人は寄り添ってゆく。
 そして、ふたりは結ばれて・・・
 しかし、これはまだ遠い未知の話である――。

 それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】

著作:紫草


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