大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――

『思ひ出語り/天上界10』
ブラフマー神

 何故、現れる。
 何故だ…。
 何故、彼が…。
 この天上界に…。

 昨日現れた、あの形。
 嘗て一度だけ見たことのある、あの姿。
 ブラフマー神――。

 長の驚愕に、腹心の部下がリューシャンを呼び戻そうかと進言する。
 すると、その言葉に今度は慟哭するのだった。
 嫌な予感がする。
 何か大きな力が、星と星の間を行き来しているような。

 この世の最高三神。
 本来なら、人に関わりを持つことなどなく、どの世界で何が起ころうとも無関心な彼ら。
 ところがこの数千年の間というもの、シヴァ神が人への関心を強く示していた。
 そのせいで、あちらこちら人の戦さが絶えることはなく、星が消えた所もあると聞く。
 ただでさえ、その影響を受け易い環境にある天上界と天界、そして地上界は何か起これば一蓮托生だ。
 最近のシヴァ神の興味は、もっぱら地上界に向けられているので、空間の河を失った天上界は独立した星のようになっている。

 そこに現れたあの神、ブラフマー。

 何故、此処に。
 その疑問は消えることはない。
 ブラフマー神が現れた。
 吉凶、どちらに転ぶのか…。
 こちらからは何も云えない。
 神が動いたことしか分からない。

 誰にも分からない。
 この先、この天上界がどうなるのか。
 リューシャン…
 迦楼羅に何かが起こるというのだろうか。
 青龍がザキーレを呼ぶと云っていたが、結局、諦めたようだ。
 あの二人は一対だ。
 一緒にいなければ、力が弱まる。
 もしも、どちらかに何かがあれば、シヴァ神はどうするのだろう。
 ヴィシュヌ神も共に動くのだろうか。
 ブラフマー神は、どうするつもりだ。

 星の廻りの大修正。流星群が空をよぎる。
 この世が大きく変わろうとしているのかもしれなかった――。
 ただ一つ確かなことは、もうザキーレとリューシャンの還る場所はないということだけだった。

 それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】

著作:紫草


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