大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――
何故、現れる。
何故だ…。
何故、彼が…。
この天上界に…。
昨日現れた、あの形。
嘗て一度だけ見たことのある、あの姿。
ブラフマー神――。
長の驚愕に、腹心の部下がリューシャンを呼び戻そうかと進言する。
すると、その言葉に今度は慟哭するのだった。
嫌な予感がする。
何か大きな力が、星と星の間を行き来しているような。
この世の最高三神。
本来なら、人に関わりを持つことなどなく、どの世界で何が起ころうとも無関心な彼ら。
ところがこの数千年の間というもの、シヴァ神が人への関心を強く示していた。
そのせいで、あちらこちら人の戦さが絶えることはなく、星が消えた所もあると聞く。
ただでさえ、その影響を受け易い環境にある天上界と天界、そして地上界は何か起これば一蓮托生だ。
最近のシヴァ神の興味は、もっぱら地上界に向けられているので、空間の河を失った天上界は独立した星のようになっている。
そこに現れたあの神、ブラフマー。
何故、此処に。
その疑問は消えることはない。
ブラフマー神が現れた。
吉凶、どちらに転ぶのか…。
こちらからは何も云えない。
神が動いたことしか分からない。
誰にも分からない。
この先、この天上界がどうなるのか。
リューシャン…
迦楼羅に何かが起こるというのだろうか。
青龍がザキーレを呼ぶと云っていたが、結局、諦めたようだ。
あの二人は一対だ。
一緒にいなければ、力が弱まる。
もしも、どちらかに何かがあれば、シヴァ神はどうするのだろう。
ヴィシュヌ神も共に動くのだろうか。
ブラフマー神は、どうするつもりだ。
星の廻りの大修正。流星群が空をよぎる。
この世が大きく変わろうとしているのかもしれなかった――。
ただ一つ確かなことは、もうザキーレとリューシャンの還る場所はないということだけだった。
それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】