大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――

『思ひ出語り/地上界47』
露智迦10〜封印が解ける〜

 珥堕が弾け飛んだ。
 リューシャンが施した、左耳の封印。
 その刹那、塵と化し始めた体躯の時の刻みが止まった。

 何が起こったのか、聞くまでもないな。
 溢れ出る血汐に、体躯の全てが濡れていた。
 支えるのは、迦楼羅の腕か。
 封印が解けて初めて知る、その内容も間違ってはいなかった。
 青龍刀で斬られても尚、まだ龍形を留めている。
龍

『迦楼羅』
 声は出ない。
 でも心の声は届く。
「何?」
『幸せになれ。天や龍のことなど忘れて、人として幸せになれ』
「露智迦…」
 首を振る迦楼羅に、龍を支えるのは大変だ。
 笑う状況ではないと分かっていても、思わず笑ってしまいそうだ。

 露智迦は最期の力を振り絞り、人型に戻った。
 驚く迦楼羅の腕のなかで、最期の時が来る。
「露智迦。嫌だ。どこにも逝くな」
 泣き叫ぶ迦楼羅の頬に、そっと触れる。
『お前は… 生きろ』
 それが最期の言葉になった――。

 それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】

著作:紫草


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