大昔。
空に我等、龍神が多く飛び交ふ、その下に――
珥堕が弾け飛んだ。
リューシャンが施した、左耳の封印。
その刹那、塵と化し始めた体躯の時の刻みが止まった。
何が起こったのか、聞くまでもないな。
溢れ出る血汐に、体躯の全てが濡れていた。
支えるのは、迦楼羅の腕か。
封印が解けて初めて知る、その内容も間違ってはいなかった。
青龍刀で斬られても尚、まだ龍形を留めている。
『迦楼羅』
声は出ない。
でも心の声は届く。
「何?」
『幸せになれ。天や龍のことなど忘れて、人として幸せになれ』
「露智迦…」
首を振る迦楼羅に、龍を支えるのは大変だ。
笑う状況ではないと分かっていても、思わず笑ってしまいそうだ。
露智迦は最期の力を振り絞り、人型に戻った。
驚く迦楼羅の腕のなかで、最期の時が来る。
「露智迦。嫌だ。どこにも逝くな」
泣き叫ぶ迦楼羅の頬に、そっと触れる。
『お前は… 生きろ』
それが最期の言葉になった――。
それはまた別の機会の、お話ということで…
【了】